三共済(小規模企業共済・倒産防止共済・中退共)とは

第1章:三共済の全体像——3制度の概要と特徴

三共済はいずれも独立行政法人・中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営または関与する国の制度です。それぞれ目的・対象・節税効果が異なります。

比較軸①小規模企業共済②倒産防止共済③中退共
運営主体中小機構中小機構中退共(独立行政法人)
目的経営者の廃業・引退への備え取引先倒産時の資金繰り確保従業員の退職金の積立・支払い
加入者小規模企業の経営者・役員・個人事業主本人中小企業・個人事業主(法人・個人)事業主(従業員のために加入)
掛金範囲月額1,000円〜70,000円(500円単位)月額5,000円〜200,000円(5,000円単位)従業員1人あたり月額5,000円〜30,000円
節税の仕組み全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除)全額損金算入(法人)または全額必要経費(個人)全額損金算入(法人)または全額必要経費(個人)
受取・給付廃業・引退・死亡時に共済金(退職金相当)取引先倒産時に貸付(最高8,000万円)従業員退職時に退職金を中退共から直接支払い
積立上限(年額)84万円/年(月7万円×12)240万円/年(月20万円×12)。累計積立上限800万円従業員数・掛金月額による

第2章:①小規模企業共済——経営者の「退職金」を国が支援する制度

🔵 小規模企業共済——「経営者版 iDeCo」とも呼ばれる老後の備え

小規模企業共済は、個人事業主・小規模企業の役員・共同経営者が廃業や引退に備えて掛金を積み立て、廃業・死亡・老齢時に共済金(退職金に相当)を受け取る制度です。掛金は全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)となるため、現役時代の節税と老後の備えを同時に実現できます。

掛金70,000円/月(年間840,000円)を納付した場合、課税所得に対する節税額は次のとおりです(法人役員の場合は後述)。

※住民税(10%)の節税効果を含めると、それぞれの金額に約84,000円を加えた額が総節税額の目安となります。実際の節税額は各種控除の状況によって異なります。

✅ 法人役員も加入できる——役員報酬の受取側で節税

法人の役員も「常時使用する従業員が20人以下の小規模企業」の役員であれば加入できます。法人としては役員報酬を支払う(損金算入)→役員個人として小規模企業共済の掛金を支払う(所得控除)という二段階の節税が可能です。ただし法人が直接掛金を支払うことはできません。

⚠️ 任意解約は20年未満で元本割れ

廃業・引退以外の任意解約では、掛金納付月数が240か月(20年)未満の場合、受取額が掛金総額を下回ります(元本割れ)。長期継続前提の制度のため、短期的な節税目的のみで加入し早期解約することは経済合理性がありません。

第3章:②倒産防止共済(経営セーフティ共済)——取引先倒産への備え

🟠 倒産防止共済——取引先が倒産したとき、最大8,000万円の貸付を受けられる

経営セーフティ共済(倒産防止共済)は、取引先が倒産した場合に売掛金や受取手形が回収できなくなるリスクに備える制度です。加入後1年以上経過していれば、回収困難な金額の最大80%(上限8,000万円)の無担保・無保証・低利の融資を受けることができます。

掛金は全額を損金算入(法人)または必要経費(個人)に計上できるため、節税ツールとしても広く利用されています。

倒産防止共済の掛金は支払った事業年度(個人は年)に全額損金または必要経費に算入できます。これにより、利益が多く出た期に掛金を増額して課税所得を圧縮するという節税が可能です。

🔴 2024年10月改正:節税目的の解約に制限——再加入後2年間は損金算入不可

倒産防止共済は従来、掛金を損金算入しながら積み立て、解約時に受け取る解約手当金(益金)を翌期に先送りするという節税手法が多用されていました。

2024年10月1日以降、倒産防止共済を解約後に再加入した場合、再加入後2年間は掛金を損金算入できない(法人税法上の損金・所得税法上の必要経費不算入)という制限が設けられました。節税目的の解約・再加入を繰り返す手法は実質的に封じられています。

✅ 解約手当金は益金・収入算入が必要

解約手当金を受け取った場合、受取額は益金(法人)または事業所得の収入(個人)として算入しなければなりません。掛金を損金算入した分が解約時に課税されるため、課税の繰延べであることを理解したうえで活用することが重要です。

第4章:③中小企業退職金共済(中退共)——従業員の退職金を国が助成

🟢 中退共——従業員の退職金制度を持てない中小企業の強い味方

中退共(中小企業退職金共済)は、中小企業が自社で退職金制度を持てない場合に代わりに退職金を積み立てるための制度です。事業主が毎月掛金を納付し、従業員が退職したときに中退共から直接退職金が支払われます。

掛金は全額が損金算入(法人)または必要経費(個人)となり、新規加入・掛金増額には国の助成もあります。

項目内容
加入対象(事業主)中小企業者(業種によって資本金・従業員数の要件が異なる)
加入対象(従業員)原則として全従業員(パート・アルバイトも可)。事業主・役員は加入不可
掛金月額5,000円〜30,000円(16種類)。従業員ごとに設定
掛金の負担全額事業主負担(従業員からの控除は不可)
退職金の支払い中退共から退職した従業員に直接支払われる(事業主が介在しない)
退職金の税務(従業員)退職所得として課税(退職所得控除が適用)
助成の種類内容
新規加入助成新規加入後4か月目から4か月間、掛金月額の1/2(上限5,000円)を国が助成
掛金増額助成掛金増額後4か月目から4か月間、増額分の1/3(上限2,000円)を国が助成
短時間労働者の特例短時間労働者(週30時間未満)の掛金が月額2,000円〜4,000円の場合、掛金月額の1/2を国が助成
✅ 中退共の大きなメリット——退職金支払いが会社の資金繰りに影響しない

中退共では退職金が中退共から直接従業員に支払われます。会社は退職時に退職金のための資金を用意する必要がなく、資金繰りへの影響がありません。毎月の掛金は損金算入できるため、退職金を計画的・均等に費用化できます。

また、退職金制度の整備により採用競争力の向上・従業員の定着率改善という経営上の効果も期待できます。

⚠️ 事業主・役員は加入できない

中退共はあくまで「従業員のための退職金制度」です。事業主本人・法人の役員(使用人兼務役員の使用人部分を除く)は加入対象外です。経営者自身の退職金の積立には①小規模企業共済を活用してください。

第5章:三共済の節税効果の比較と使い分け

💡 三共済は「組み合わせて使う」のが正解

三共済は競合・排他関係になく、すべて同時に活用できます。

  • 経営者自身の老後の積立 → ①小規模企業共済(月7万円まで)
  • 法人・事業の利益調整・取引先倒産リスクへの備え → ②倒産防止共済(月20万円まで)
  • 従業員の退職金制度の整備 → ③中退共(従業員ごとに設定)

3制度を組み合わせることで、個人の節税・法人の節税・従業員福利厚生という異なる目的を同時に達成できます。

第6章:三共済の経理処理と仕訳

小規模企業共済は個人事業主または役員個人が加入・支払いを行う制度です。法人の経費にはなりません。

掛金額

掛金額

個人事業主の場合、掛金は事業の経費ではなく「事業主貸」で処理する。確定申告書(第一表)の「小規模企業共済等掛金控除」欄に掛金額を記入して所得控除を受ける。

(役員が個人で支払い)

(役員報酬から支払い)

法人役員が加入した場合、法人は掛金を負担できない(損金算入不可)。役員個人が役員報酬から支払い、個人の確定申告で小規模企業共済等掛金控除を適用する。

掛金額

掛金額

倒産防止共済の掛金は「保険料」(または「支払共済掛金」「経営セーフティ共済掛金」)として処理し、全額損金算入。個人事業主の場合は「必要経費」として処理する。

解約手当金額

解約手当金額

解約手当金は全額が益金算入(法人)または事業所得の収入(個人)。掛金を損金算入した分が解約時に課税されるため、課税タイミングの調整効果があることを理解したうえで活用すること。

掛金額

掛金額

勘定科目は「退職金共済掛金」「中退共掛金」または「福利厚生費」で処理するのが一般的。全額損金算入(法人)または必要経費(個人)。国の助成金受取は「雑収入」に計上。

(中退共から直接支払い)

(退職所得控除を適用)

退職金は中退共から直接従業員に支払われるため、事業主は退職金支払の仕訳を行わない(既に毎月の掛金支払時に費用化済み)。ただし、会社が退職金を上乗せ支払いする場合は別途処理が必要。

制度支払時の仕訳(借方)節税の仕組み受取・解約時
①小規模企業共済事業主貸(個人)
法人は仕訳なし
確定申告で小規模企業共済等掛金控除(所得控除)退職所得または雑所得(課税あり)
②倒産防止共済保険料または支払共済掛金全額損金算入(法人)または必要経費(個人)雑収入(法人)または収入算入(個人)。課税の繰延効果
③中退共退職金共済掛金または福利厚生費全額損金算入(法人)または必要経費(個人)従業員への直接払い(事業主は原則仕訳なし)

第7章:三共済を活用した節税の実務ポイント

確認事項制度ポイント
小規模企業共済に加入しているか未加入なら即加入。月7万円で年84万円の所得控除。前納(一括払い)で当年の控除を増やすことも可能
倒産防止共済の掛金を最大化しているか月20万円で年240万円まで損金算入可。利益が多い期に増額を検討(増額は翌月から有効)
中退共で全従業員をカバーしているか新規加入時の国の助成(掛金の1/2)を最大限活用。パート・アルバイトも加入可
倒産防止共済の解約を検討しているか2024年10月改正後は解約→再加入後2年間損金算入不可。安易な解約はリスクあり
小規模企業共済の掛金を増額できるか利益増加に合わせて掛金を増額することで節税効果を高める
制度年間最大掛金節税の仕組み
①小規模企業共済840,000円所得控除(課税所得に応じて15〜55%の節税率)
②倒産防止共済2,400,000円必要経費(課税所得に応じて15〜55%の節税率)
③中退共従業員数による必要経費(課税所得に応じて15〜55%の節税率)
①+②合計(参考)3,240,000円課税所得1,000万円超の場合、最大約178万円以上の節税効果
⚠️ 節税は「課税の繰延べ」も含む——出口戦略を設計すること

①小規模企業共済は受取時に退職所得または雑所得として課税されます(退職所得控除があるため通常は有利)。

②倒産防止共済は解約時に解約手当金が益金または収入として一括課税されます。掛金拠出時の節税は確定的ですが、受取・解約時の課税も念頭に置いた「出口戦略」の設計が不可欠です。税理士と連携して、受取タイミング・金額の最適化を図ることを強くお勧めします。

第8章:まとめ——三共済は「備えながら節税する」最強の手段

三共済(小規模企業共済・倒産防止共済・中退共)は、それぞれ異なる目的と節税の仕組みを持ちながら、互いに補完し合う制度設計になっています。

  • 小規模企業共済:経営者自身の退職金を積み立てながら所得控除。年84万円まで全額控除。受取時は退職所得扱いで有利
  • 倒産防止共済:取引先倒産リスクに備えながら全額損金算入。年240万円(月20万円)まで。2024年10月改正で解約後再加入2年間は損金不算入に注意
  • 中退共:従業員の退職金を積み立てながら全額損金算入。国の助成制度あり。退職金は中退共から直接支払いで資金繰りに影響しない
  • 三共済は競合しないため、すべて同時に活用できる。組み合わせることで節税効果を最大化できる
  • ①は確定申告の所得控除欄に記入。②は法人では損金算入・個人では必要経費に計上。③は掛金を退職金共済掛金または福利厚生費として計上
  • 受取・解約時には課税が発生するため、「入口(掛金)」の節税だけでなく「出口(受取・解約)」の課税を含めた一体的な設計が必要
  • 倒産防止共済の解約→再加入を繰り返す節税手法は2024年10月以降実質的に封じられた。現行制度のルールを正確に把握したうえで活用すること

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石水会計事務所 税理士・公認会計士・公認不正検査士      
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