中古マンションを買ったとき、「取得原価」はどう決まる?

中古マンションを買ったとき、「取得原価」はどう決まる?


  • 取得原価に「含める費用」と「含めない費用」の見分け方
  • 登録免許税・司法書士費用など各費用の具体的な扱い
  • 購入代金を土地・建物・建物附属設備に按分する3つの方法
  • 按分の計算例(数値シミュレーション付き)
  • 建物附属設備を別途計上することのメリット

まず基本から—なぜ「取得原価」が大切かー

不動産賃貸で収入を得ると、毎年の確定申告で「不動産所得」を計算する必要があります。このとき、建物・設備の減価償却費が必要経費として認められます。

減価償却費は「取得原価 ÷ 耐用年数」で計算されます。つまり、取得原価が正しく計算されていないと、毎年の減価償却費の金額が変わり、所得税の申告額にも直接影響します

  • 所得税法第49条——減価償却資産の償却費の計算
  • 所得税法施行令第126条——取得価額の計算(購入の場合)
  • 所得税法施行令第6条——減価償却資産の範囲(土地を除く旨)
  • 所得税基本通達38−1ほか——取得費に関する取扱い

第一章:取得原価に含める付随費用・含めない費用

取得原価は「購入金額だけ」ではありません。所得税法施行令第126条は、減価償却資産の取得価額について次のように定めています。

「当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)及び当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額」

つまり、取得原価 = ①購入代価 + ②購入のために要した費用 + ③事業の用に供するために直接要した費用、ということです。

費用の3区分——「必ず含める」「含めないことができる」「含めない」

業務用(賃貸用)不動産の取得原価をめぐる付随費用の扱いは、所得税基本通達37-5・49-3によって、法人税とは異なる独自のルールが設けられています。特に重要なのは、「原則として取得原価に算入すべき費用でも、通達により必要経費算入が認められているもの」の存在です。

📌 所得税基本通達37-5(業務用資産に係る租税等)の趣旨

「業務の用に供される資産に係る固定資産税、登録免許税(登録に要する費用を含み、その資産の取得価額に算入されるものを除く。)、不動産取得税、地価税、特別土地保有税、事業所税、自動車取得税等は、当該業務に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入する。」

つまり通達37-5は、業務用資産(賃貸用マンション)については、登録免許税・不動産取得税等を取得価額ではなく必要経費として処理することを定めた通達です。ただし通達49-3との関係で、一定の登録免許税は取得価額算入を選択することも可能とされています(後述)。

区分費用の種類所得税上の原則的な扱い根拠・補足
取得原価
に算入
(選択不可)
購入代金(売買代金)取得原価に算入。選択の余地なし。所得税法施行令第126条第1項第1号
仲介手数料(不動産業者への報酬)取得原価に算入。「購入のために要した費用」に該当。選択の余地なし。施行令第126条第1項第1号。通達37-5・49-3の対象外(租税ではないため)
固定資産税・都市計画税の精算金(売主への支払い分)取得原価に算入。固定資産税そのものではなく「購入代価の一部」として取り扱う。必要経費には算入不可。国税庁質疑応答事例(賃貸用アパートを購入した際の固定資産税等清算金の取扱い)、施行令第126条第1項第1号
通達により
必要経費
算入が原則
(一部は
取得原価
との選択可)
登録免許税(所有権移転登記)・登記手続費用原則として必要経費に算入(通達37-5)。ただし通達49-3により、特許権等「登録により権利が発生する資産」および船舶・航空機等「業務に供するために登録を要する資産」に係るものは取得原価算入。不動産登記はこれらに該当しないため、取得原価算入不可・必要経費算入が原則。所得税基本通達37-549-3
国税不服審判所裁決(平18.6.8、裁決集No.71)
司法書士報酬(所有権移転登記)原則として必要経費に算入。通達37-5は「登録免許税(登録に要する費用を含む。)」と規定しており、司法書士報酬はこの「登録に要する費用」として登録免許税と同様に必要経費に算入する。取得価額には算入しない。所得税基本通達37-5(「登録に要する費用を含む」の括弧書き)
不動産取得税原則として必要経費に算入(通達37-5)。業務用資産については、法人税と異なり個人の意思による選択(取得原価算入)は原則として認められない。ただし非業務用の場合は取得費算入(通達38-9・60-2参照)。所得税基本通達37-5
国税不服審判所裁決(平4.5.13、裁決集No.43):個人の場合、選択は認められないと明示
印紙税(売買契約書)通達37-5の「等」に含まれ、必要経費に算入するのが実務上一般的。少額のため取得原価算入との差異は小さい。所得税基本通達37-5の趣旨
住宅ローン保証料(一括前払い型)取得原価に算入することもできるが、借入期間に対応する部分を各年の必要経費(借入金利子)に期間按分して計上することも認められる。実務上は按分計上が多い。所得税基本通達37-27の2
取得原価
に含めない
(必要経費
or
別扱い)
住宅ローンの利子(借入利息)使用開始後の期間に係る支払利息は毎年の必要経費(借入金利子)。取得原価には算入しない(基本通達37-27)
火災保険料・地震保険料損害保険料として毎年の必要経費に計上。取得原価には算入しない
管理費・修繕積立金(取得後)取得後に発生する費用は毎年の必要経費。取得原価には算入しない
賃貸管理手数料・入居者募集広告費不動産所得の必要経費として毎期計上。取得原価には算入しない
引渡し後の通常の維持・修繕費修繕費として必要経費に計上(資本的支出に該当する場合のみ取得原価に算入)(基本通達37-10・37-11)

法人税では、登録免許税・不動産取得税等について「取得価額に算入する」か「損金(費用)とする」かを法人が自由に選択できます(法人税基本通達7-3-3の2)。

一方、所得税(個人の賃貸用不動産)では、通達37-5により「業務用資産に係る登録免許税・不動産取得税等は必要経費に算入する」と定められており、個人の意思で取得原価算入を選択することは原則として認められません(国税不服審判所の裁決でも確認済み)。

この違いは実務上、個人の不動産投資家が取得年に費用をしっかり計上でき、取得年の不動産所得を圧縮しやすいというメリットにつながります。

売買の際に「固定資産税の精算金」として売主に支払う金額は、固定資産税そのものではありません。買主は固定資産税の納税義務者でないため、これは「売買代金の一部(購入代価の一部)」として取得原価に算入されます(国税庁質疑応答事例)。

通達37-5が規定する「業務用資産に係る固定資産税」は自ら納税義務者として課される固定資産税であり、売買時の精算金とは別物です。精算金を「固定資産税だから必要経費にできる」と誤解して、必要経費に算入することは誤りですので注意が必要です。

根拠通達まとめ

第二章:取得原価の「土地・建物・建物附属設備」への配分

中古マンションの購入は、通常「物件全体の代金」として一括で支払います。しかし税務上は、この総額を次の3つに分けて管理する必要があります。

なぜ「建物附属設備」を別途区分するのか

建物の耐用年数(RC造・住宅用:47年)より、設備の耐用年数の方が大幅に短い(例:給排水設備は15年、電気設備は15年など)ため、設備部分を建物本体と区分することで、設備の耐用年数分だけ早く償却できます

  • 設備の耐用年数(15〜20年程度)で早期に償却→初期の減価償却費が増える→不動産所得を早期に圧縮できる
  • 建物本体の取得原価が下がる→長期保有後の売却時の譲渡所得計算にも影響する場合がある

主な建物附属設備と法定耐用年数

附属設備の種類法定耐用年数中古の目安
電気設備(照明・コンセント等)15年簡便法で計算(後述)
給排水・衛生設備15年同上
ガス設備15年同上
空調設備(業務用)15年同上
エレベーター17年同上
内装・内部造作(居室内の仕上げ等)建物と同じ耐用年数を適用することが多い建物本体と合算することも

第三章:土地・建物・附属設備への按分方法(3つのアプローチ)

購入代金全体をどう按分するかについて、所得税法には明文の規定はありませんが、実務では主に以下の3つの方法が採用されています。

売買契約書に土地・建物の内訳が明記されている場合——契約書の金額をそのまま使用
売買契約書に「土地 ○○円、建物 △△円」と区分記載がある場合は、その金額を取得原価の基礎として使用します。これが最もシンプルで、税務上も最も争いが少ない方法です。

固定資産税評価額の比率で按分——最も広く使われる方法
売買契約書に内訳がない場合(一括価格のみの場合)、市区町村が毎年送付する固定資産税の納税通知書に記載されている「固定資産税評価額(課税標準額)」の土地・建物の比率を使って按分します。

不動産鑑定評価・建物の再取得価額等による個別の按分
固定資産税評価額が実態を反映していないと考えられる場合や、より精緻な按分が必要な場合は、不動産鑑定士による鑑定評価額や建物の再取得価額(新築時にかかる費用相当額)等を基準として按分することもできます。鑑定費用はかかりますが、税務上の根拠として有力です。

固定資産税評価額は通常「土地」と「建物(附属設備を含む)」の2区分しかありません。建物附属設備をさらに区分するには、建物全体の評価額の中に「設備相当額」がいくら含まれるかを何らかの方法で推計する必要があります。一般的には、建物価格のうち10〜20%程度を設備として区分する方法や、建築工事見積書・建物評価証明書を参照する方法がとられます。明確な基準はなく実務的な判断になりますので、税理士との相談をお勧めします。

固定資産税評価額による按分の具体的な計算手順

固定資産税の納税通知書(または評価証明書)で評価額を確認する
市区町村から毎年4〜6月頃に届く固定資産税・都市計画税の納税通知書に、土地・建物それぞれの「価格(評価額)」が記載されています。取得時点の直近年度のものを使用します。。

土地・建物それぞれの按分割合を計算する                                
土地按分割合 = 土地評価額 ÷(土地評価額 + 建物評価額)
建物按分割合 = 建物評価額 ÷(土地評価額 + 建物評価額)

総取得原価(購入代金+付随費用)に按分割合を掛ける                          
土地の取得原価 = 総取得原価 × 土地按分割合
建物の取得原価 = 総取得原価 × 建物按分割合

建物の取得原価から附属設備分をさらに区分する(任意)
建物の取得原価の中から附属設備相当額を推計して区分します。設備の比率は物件の仕様・築年数によって異なります

第四章:計算シミュレーション

具体的な数字で確認しましょう。

📌 前提条件

  • 中古マンション(RC造・築20年)をワンルーム1室購入、賃貸用に使用
  • 売買代金:2,500万円(契約書に土地・建物内訳の記載なし)
  • 仲介手数料:86.25万円(税込)→ 取得原価に算入
  • 登録免許税(所有権移転):12万円→ 通達37-5により必要経費(租税公課)
  • 司法書士報酬:8万円→ 通達37-5の趣旨・通達49-3により必要経費
  • 不動産取得税:15万円→ 通達37-5により必要経費(租税公課)
  • 固定資産税精算金:6万円 購入代価の一部として取得原価に算入(必要経費算入不可・国税庁質疑応答事例)
  • 固定資産税評価額:土地 800万円、建物 400万円
  • 建物のうち附属設備相当:建物評価額の 15%(60万円)と推計

📊 Step 1:総取得原価を計算する

項目金額算入区分
売買代金25,000,000円取得原価
仲介手数料862,500円取得原価
固定資産税精算金60,000円取得原価(購入代価の一部)
登録免許税120,000円必要経費(通達37-5)
司法書士報酬80,000円必要経費(通達37-5・49-3)
不動産取得税150,000円必要経費(通達37-5)
総取得原価(合計)25,922,500円※登録免許税・司法書士報酬・
不動産取得税は取得原価から除く

📊 Step 2:固定資産税評価額で土地・建物を按分する

区分固定資産税評価額按分割合取得原価配分額
土地8,000,000円8,000 ÷ 12,000 = 66.67%25,922,500 × 66.67% ≒ 17,282,530円
建物(合計)4,000,000円4,000 ÷ 12,000 = 33.33%25,922,500 × 33.33% ≒ 8,639,970円

📊 Step 3:建物の取得原価を「建物躯体」と「建物附属設備」に区分する

取得原価

17,475,000円

耐用年数

—(償却なし)

年間償却費

0円

建物の取得原価

8,639,970円

うち附属設備分(15%)

△1,295,995円

躯体の取得原価

7,343,975円

法定耐用年数

47年

中古耐用年数(簡便法)

▶ 31年

年間償却費(定額法)

236,902円

取得原価(推計15%)

1,295,995円

種類(例:電気・給排水)

各15年

中古耐用年数(簡便法)

▶ 3年

年間償却費(定額法)

約431,998円

※ 中古資産の簡便法による耐用年数:
建物躯体(RC造47年、築20年):(47年 − 20年)+ 20年 × 20% = 27年 + 4年 = 31年 → 最低2年のため、計算上は27+4=31年。ただし計算方法の詳細は所得税法施行令第133条の2参照。概算で上記を記載。
設備(15年、築20年):法定耐用年数(15年)を既に超過 → 法定耐用年数 × 20% = 3年(最低2年)

  • 建物躯体と附属設備を区分したことで、設備部分は短い耐用年数(3年)で早期に費用化できる
  • 区分しない場合と比べて、初期数年間の減価償却費が大きくなり、不動産所得の圧縮効果が高まる
  • ただし設備の取得原価をどう推計するかは実務的な判断を伴うため、専門家への相談を推奨

よくある疑問Q&A

Q
消費税が記載されていると便利?
A

売買契約書に消費税額が記載されている場合、消費税は建物にしか課税されない(土地は非課税)ため、消費税の逆算から建物部分の価格を割り出すことができます。

契約書に消費税額が記載されている場合:
建物価格 = 消費税額 ÷ 税率(10%)
土地価格 = 売買代金 ― 建物価格 ― 消費税額

例:売買代金2,750万円(うち消費税250万円)なら、建物 = 250万円 ÷ 10% = 2,500万円、土地 = 2,750万円 − 2,500万円 − 250万円 = 0円(この例は建物のみの場合)

消費税の記載がある場合はこの方法が最も信頼性が高く、税務上も説明しやすい方法です。

Q
固定資産税評価額はいつのものを使う?
A

取得した年に対応する年度の固定資産税評価額を使います。固定資産税評価額は3年に1度見直されます(基準年度)。取得した翌年の4〜5月に最初の納税通知書が届きますが、取得前の評価額を市区町村窓口で「固定資産評価証明書」として取得することも可能です。

Q
区分マンションで「土地」の評価額はどう確認する?
A

区分マンションの場合、土地は敷地全体を区分所有者全員で按分した「敷地権」として保有します。固定資産税の評価証明書には、その区分に対応する土地(敷地権)の評価額が記載されています。

Q
付随費用の按分はどうする?
A

仲介手数料・登録免許税・司法書士報酬などの付随費用は、同じ按分割合(固定資産税評価額の比率)で土地・建物に配分するのが一般的です。付随費用全体を土地と建物で按分して、それぞれの取得原価に加算します。

まとめ——購入前から税務を意識することが大切

取得原価の計算・按分方法は、物件の状況・契約内容・税務上の選択によって最適な方法が異なります。また、建物附属設備の区分や中古の耐用年数の計算には専門的な判断が必要です。確定申告の際には必ず税理士にご相談ください。本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の税務アドバイスではありません。

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