経営管理 / 財務 / 資金繰り
資金繰り表のつくり方
—損益計算書から誘導する実務手順ー
製造業・建設業の記入例つき
P/L の数値を「現金ベース」に変換し、6か月先の資金不足を見通す
「損益計算書(P/L)はあるのに資金繰り表をどう作ればいいかわからない」——中小企業の経営者からよく聞く悩みです。本記事では、すでに手元にあるP/Lを出発点にして資金繰り表を組み立てる「P/L誘導型」の作成手順を、製造業・建設業の2業種の具体的な記入例とともに解説します。建設業では工事案件ごとの入金管理が不可欠なため、プロジェクト別入金管理表を資金繰り表と連動させる方法も詳しく説明します。
📋 目次
- 資金繰り表と損益計算書の関係——「利益」と「現金」はなぜズレるか
- P/Lから資金繰り表を誘導する仕組み——3つの調整
- 資金繰り表の基本構造(P/L誘導型)
- 作成手順——P/Lを資金繰り表に変換する5ステップ
- 【製造業】資金繰り表の記入例
- 【建設業】プロジェクト別入金管理表と資金繰り表の記入例
- 資金繰り表の読み方・危険シグナル・改善アクション
- 月次管理サイクル——予実対比で精度を高める
- まとめ
第1章:資金繰り表と損益計算書の関係——「利益」と「現金」はなぜズレるか
損益計算書に「当期純利益 300万円」と書いてあっても、銀行口座の残高が増えているとは限りません。利益と現金がズレる主な理由は次の3つです。
| ズレの原因 | 具体例 | P/Lへの影響 | 現金への影響 |
|---|---|---|---|
| ①売上の計上と入金のズレ | 売上計上済みだが代金は翌月末に入金 | 今月の収益に計上済み | 今月は入金なし |
| ②費用計上と現金支出のズレ | 減価償却費・引当金繰入は現金支出なし | 費用として計上 | 現金は出ていかない |
| ③借入の元本返済 | 毎月100万円の元本返済 | 費用に計上されない | 現金が出ていく |
🔴 P/Lが黒字でも資金ショートが起きる「黒字倒産」——建設業で特に危険
建設業では工事完成・引渡し後に売上計上しても、施主からの入金が「引渡し後60〜90日」となるケースが多く、その間に外注費・材料費・人件費の支払いが先行します。P/L上は黒字でも現金が枯渇して支払いができなくなる——これが建設業の「黒字倒産」の典型パターンです。
第2章:P/Lから資金繰り表を誘導する仕組み——3つの調整
P/Lの当期利益を出発点に、以下の3種類の調整を加えることで、その期間の「現金の増減(資金収支)」を求めることができます。これがP/L誘導型資金繰り表の基本的な考え方です。
📊 損益計算書(P/L)
- 売上高(発生主義)
- 売上原価・販管費
- 営業外損益
- → 当期純利益
+
調整
⚙️ 3つの調整
- 収支タイミング調整
(売掛・買掛の増減) - 非現金項目の除去
(減価償却・引当金) - P/L外の現金移動
(借入返済・設備投資)
=
💰 資金繰り表
- 経常収入(現金ベース)
- 経常支出(現金ベース)
- 投資収支
- 財務収支
- → 翌月繰越残高
調整① 収支タイミング調整(売掛・買掛・棚卸の増減)
➕ 経常収入に「加算」する項目(P/Lより現金が多い)
- 売掛金・受取手形の減少額
→ 以前計上した売上が今期入金された - 前受金の増加額
→ 来期の売上分を前払いで受け取った - 減価償却費・のれん償却(非現金費用)
→ P/Lで費用計上されたが現金は出ていない - 引当金繰入額(貸倒・退職給付等)
→ 同上
➖ 経常収入から「控除」する項目(P/Lより現金が少ない)
- 売掛金・受取手形の増加額
→ 今期売上を計上したがまだ未回収 - 棚卸資産の増加額
→ 仕入れたが売れていない(現金は出た) - 買掛金・支払手形の減少額
→ 前期分の買掛金を今期支払った - 前払費用の増加額
→ 来期分の費用を今期先払いした
調整② P/L外の現金移動(借入・返済・設備投資)
| 項目 | P/Lへの記載 | 現金への影響 | 資金繰り表での区分 |
|---|---|---|---|
| 借入金の受入 | 記載なし(B/S負債増加) | 入金あり | 財務収入 |
| 借入金の元本返済 | 記載なし(B/S負債減少) | 出金あり | 財務支出 |
| 設備投資(購入) | 記載なし(B/S資産増加) ※減価償却費はP/Lに費用計上 | 購入時に出金 | 投資支出 |
| 固定資産の売却 | 売却損益のみP/Lに計上 | 売却代金が入金 | 投資収入 |
✅ 毎月の資金繰り表では「月次ベース」で調整する
年間のキャッシュフロー計算書のような期首・期末の増減比較ではなく、資金繰り表は月ごとの入金予定日・支出予定日ベースで数値を組み立てます。P/Lの月次試算表を基に「この売上はいつ入金か」「この費用はいつ支払うか」を一件ずつ確認して配置するのが、P/L誘導型の実務的な作業です。
第3章:資金繰り表の基本構造(P/L誘導型)
| 区分 | 主な項目 | P/Lとの対応 |
|---|---|---|
| 【経常収入】 | 売掛金回収(当月・前月以前請求分) | P/L売上高の「入金月」に記入 |
| 受取手形の決済 | 手形サイトが到来した月に記入 | |
| 現金売上・前受金 | P/L売上高のうち即時入金分 | |
| 【経常支出】 | 買掛金・外注費支払い | P/L仕入・外注費の「支払月」に記入 |
| 人件費・役員報酬 | P/L人件費の支払日ベース | |
| 社会保険料(翌月末納付) | P/L法定福利費の「翌月」に記入 | |
| 家賃・リース・光熱費・支払利息 | P/L販管費・営業外費用の支払日ベース | |
| 法人税・消費税等 | P/Lに計上済みだが実際の納付月に記入 | |
| 減価償却費・引当金繰入 → 除外 | P/Lに費用計上されるが現金支出なし→資金繰り表には記入しない | |
| 【投資収支】 | 設備投資・資産売却等 | P/L外。取得代金全額を支払月に計上 |
| 【財務収支】 | 借入金の受入・元本返済 | P/L外。返済予定表で月別元本返済額を確認 |
| 【翌月繰越残高】 | 前月繰越 + 当月収支差額 ←マイナスになる月が資金不足月 | |
第4章:作成手順——P/Lを資金繰り表に変換する5ステップ
STEP 1 月次試算表(P/L)の科目を「現金あり/なし」に仕分ける
当月・翌月・翌々月の月次試算表(P/L)を手元に置きます。各科目について「現金が動くのはいつか」を確認し、①現金支出あり、②現金支出なし(非現金)、③P/L外(借入・設備)に仕分けします。
STEP 2 「収支タイミング変換表」で入金・支払予定日を確定する
| P/L科目 | 変換のルール | 把握方法 |
|---|---|---|
| 売上高 | 締日・支払サイトから入金月を特定。 例:月末締め翌月末払い→翌月末入金 | 得意先別の回収条件台帳を作成する |
| 売上原価(仕入・外注) | 支払条件から支払月を特定。 例:末締め翌月20日払い→翌月20日支出 | 仕入先別の支払条件台帳を作成する |
| 人件費 | 給与支払日(例:25日)に計上。 社会保険料は翌月末に計上 | 給与台帳・社保納付通知書から確認 |
| 減価償却費 | 資金繰り表には計上しない(非現金) 代わりに設備購入代金を投資支出に計上 | 固定資産台帳・購入契約書 |
| 支払利息 | 返済予定表の利息欄を経常支出に計上。 元本返済分は財務支出に計上 | 金融機関の返済予定表(必ず入手) |
| 法人税・消費税 | P/Lに費用計上された月ではなく実際の納付月に計上 | 税務日程カレンダー・顧問税理士に確認 |
STEP 3 借入返済予定表から財務収支を作成する
取引金融機関ごとに返済予定表を入手し、毎月の元本返済額を財務支出欄に転記します。利息部分は経常支出(支払利息)に計上します。新規借入の予定がある場合は財務収入に記入します。
STEP 4 設備投資・その他スポット支出を投資支出に記入する
購入契約書・工事契約書から支払予定日と金額を確認して投資支出欄に記入します。分割払いの場合は各支払日に分けて計上します。
STEP 5 翌月繰越残高を計算し「マイナス月」を特定して対策を立てる
翌月繰越残高=前月繰越残高+当月収支差額 を月ごとに計算します。マイナスになる月が「資金対策が必要な月」です。その月の3か月前までに金融機関への相談・売掛金の早期回収交渉などの対策を実行することが原則です。
第5章:【製造業】資金繰り表の記入例
前提条件
- 月商 約1,000万円の機械部品製造業
- 回収条件:月末締め・翌月末払い(P/Lの当月売上は翌月の収入欄へ)
- 仕入条件:月末締め・翌月20日払い(P/Lの当月仕入は翌月の支出欄へ)
- 社会保険料は翌月末納付・源泉所得税は翌月10日納付
- 6月に工作機械頭金300万円支払い(リース残)
- 借入返済:毎月元本265万円(A銀行170万円+B銀行95万円)
- 8月に消費税中間納付180万円
✅ P/L誘導のポイント:「今月のP/L売上」は翌月の収入欄へ記入する
月末締め翌月末払いの場合、4月のP/L売上高(例:1,000万円)は5月の「売掛金回収」欄に記入します。資金繰り表の4月収入欄には「3月のP/L売上高」の入金が記録されます。この1か月のズレが製造業の資金繰り管理の核心です。減価償却費は資金繰り表に計上しないことも忘れずに。

🔴 資金繰表作成のポイント
- 「現預金が足りなくならないように将来の資金収支を予測する」という目的を常に理解し、必要以上に精度を求めない。
- できるだけ、シンプルに作って、運用過程で、カスタマイズしていく。
第6章:【建設業】プロジェクト別入金管理表と資金繰り表の記入例
建設業の資金繰りが特殊な理由
建設業では同時に複数の工事案件(プロジェクト)が進行し、各案件によって工期・入金条件・入金時期がバラバラなため、「今月の売上の翌月末に入金」という単純な法則が使えません。
| 建設業特有の特徴 | 内容・資金繰りへの影響 |
|---|---|
| 入金条件がプロジェクトごとに異なる | 「着工金30%・中間金40%・完成金30%」分割払い、「完成後一括払い(60日後)」、公共工事の前払金制度など、案件ごとに全く異なる |
| 外注費・材料費が入金より先行 | 施主からの入金前に下請け外注費・材料費を支払う必要があり、工期が長いほど現金の先行流出が大きくなる |
| 大口入金の「波」が激しい | 工事完成月に大口入金がある一方、翌月は入金ゼロという月もある。月ごとの収支差額の変動が製造業より格段に大きい |
| 工事進行基準のP/Lとのズレ | 工事進行基準で毎月P/Lに売上計上していても、施主からの実際の入金スケジュールは別。P/Lの数字をそのまま使えない |
STEP 1 プロジェクト別入金管理表を作成する
建設業の資金繰り表作成では、まず工事案件ごとの入金スケジュールを一覧化した「プロジェクト別入金管理表」を作成します。この表を作ることで、月別の入金合計を正確に把握し、資金繰り表の経常収入欄に転記できます。
【プロジェクト別入金管理表】

⚠️ 5月の入金がわずか350万円——外注費先行支払いが重なる「入金の谷」
A社工場工事・B社店舗工事が進行中の5月は、外注費・材料費の支払いが集中する一方、入金は350万円しかありません。B社の完成金880万円は7月まで入りません。この「入金の谷」を事前に可視化し、手形割引・短期借入の準備や外注費の支払い条件交渉を行うことが建設業の資金繰り管理の要です。
STEP 2 建設業特有の外注費・材料費の支出スケジュールも案件別に把握する
入金管理表と並んで、主要案件の外注費・材料費の支払いスケジュールも案件別に把握します。特に大型案件は工程に合わせた支払いが発生するため、入金と支出の両面から月別のキャッシュフローを確認することが重要です。
【主要案件の外注費・材料費支払い予定】

STEP 3 資金繰り表に組み込む(プロジェクト別管理表の転記)
【資金繰り表】

💡 建設業の資金繰り管理:3つの実務ポイント
- 工事受注時に入金スケジュールを即時プロジェクト別管理表に登録する:受注時点でプロジェクト別管理表に入金条件・金額・日程を記入し、資金繰り表に自動反映される仕組みを作る
- 外注先・材料業者に対して支払い条件の調整交渉を行う:入金が遅い月の外注費支払いを「入金後10日以内払い」などに交渉することで、入金と支出のズレを縮小できる
- 公共工事の前払金制度を積極活用する:公共工事では前払金(請負金額の30〜40%)を工事着手前に受け取れる制度がある。前払金保証会社(FCIA等)との契約が必要だが、着工前の資金流出を大幅に軽減できる
第7章:資金繰り表の読み方・危険シグナル・改善アクション
翌月繰越残高の安全ライン
| 残高水準 | 状態 | 対応の方向性 |
|---|---|---|
| 月商の2か月分以上 | 余裕あり | 積極的な投資も検討可 |
| 月商の1〜2か月分 | 正常範囲 | 現状維持。月次で定期チェック |
| 月商の0.5〜1か月分 | 注意水域 | 予備融資枠(当座貸越等)を確保する |
| 月商の0.5か月分未満 | 危険水域 | 金融機関への相談・売掛金早期回収・支払い条件見直し |
| マイナス(赤字残高) | 危機的状況 | 緊急融資・売掛債権ファクタリング・役員借入等を検討 |
3大危険シグナル
資金繰り改善の実務アクション
第8章:月次管理サイクル——予実対比で精度を高める
| タイミング | 作業内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 月初(1〜5日) | 前月実績の入力・今月予定の最終確認 | 通帳残高・売掛金入金実績を確認して前月列を実績に更新 |
| 月次(随時) | 大口入出金の予定確認・異常値チェック | 予定と大きくズレる場合は翌月以降の数値を修正する |
| 月末(試算表確定後) | 翌6か月分の予定列を更新・追加 | 常に6か月先まで見通せる状態を保つ。「ローリング方式」 |
| 四半期ごと | 中長期の資金計画との整合性確認 | 大型設備投資・借入返済のピーク等を把握して融資計画を立てる |
✅ 資金繰り表は「常に6か月先まで」見通せる状態に
最低でも向こう3か月分、できれば6か月分の資金繰り見通しを常に持っておくことが、金融機関・税理士・経営者が共通して求める管理水準です。月末に翌月分を追加する「ローリング方式」で継続的に更新しましょう。
第9章:まとめ
資金繰り表の作成・月次財務管理のサポートはお任せください
📞 資金繰り表の作成・月次財務管理のサポートはお任せください
「資金繰り表の作り方がわからない」「建設業の案件別入金管理を整備したい」「金融機関への提出用に資金繰り表を整備したい」——当事務所は認定支援機関として、月次試算表の作成から資金繰り表の整備・金融機関への説明資料の作成まで、経営者の資金管理をトータルにサポートします。
まずはお気軽にお問い合わせください。
TEL:055-269-6006/ お問い合わせフォームはこちら →
石水会計事務所 税理士・公認会計士・公認不正検査士
中小企業の資金繰り支援・融資サポートを得意とする税理士。創業から事業承継まで、数字でわかる経営のお手伝いをしています。


