資金繰り表のつくり方

第1章:資金繰り表と損益計算書の関係——「利益」と「現金」はなぜズレるか

損益計算書に「当期純利益 300万円」と書いてあっても、銀行口座の残高が増えているとは限りません。利益と現金がズレる主な理由は次の3つです。

建設業では工事完成・引渡し後に売上計上しても、施主からの入金が「引渡し後60〜90日」となるケースが多く、その間に外注費・材料費・人件費の支払いが先行します。P/L上は黒字でも現金が枯渇して支払いができなくなる——これが建設業の「黒字倒産」の典型パターンです。

第2章:P/Lから資金繰り表を誘導する仕組み——3つの調整

P/Lの当期利益を出発点に、以下の3種類の調整を加えることで、その期間の「現金の増減(資金収支)」を求めることができます。これがP/L誘導型資金繰り表の基本的な考え方です。

  • 売掛金・受取手形の減少額
    → 以前計上した売上が今期入金された
  • 前受金の増加額
    → 来期の売上分を前払いで受け取った
  • 減価償却費・のれん償却(非現金費用)
    → P/Lで費用計上されたが現金は出ていない
  • 引当金繰入額(貸倒・退職給付等)
    → 同上
  • 売掛金・受取手形の増加額
    → 今期売上を計上したがまだ未回収
  • 棚卸資産の増加額
    → 仕入れたが売れていない(現金は出た)
  • 買掛金・支払手形の減少額
    → 前期分の買掛金を今期支払った
  • 前払費用の増加額
    → 来期分の費用を今期先払いした
項目P/Lへの記載現金への影響資金繰り表での区分
借入金の受入記載なし(B/S負債増加)入金あり財務収入
借入金の元本返済記載なし(B/S負債減少)出金あり財務支出
設備投資(購入)記載なし(B/S資産増加)
※減価償却費はP/Lに費用計上
購入時に出金投資支出
固定資産の売却売却損益のみP/Lに計上売却代金が入金投資収入

年間のキャッシュフロー計算書のような期首・期末の増減比較ではなく、資金繰り表は月ごとの入金予定日・支出予定日ベースで数値を組み立てます。P/Lの月次試算表を基に「この売上はいつ入金か」「この費用はいつ支払うか」を一件ずつ確認して配置するのが、P/L誘導型の実務的な作業です。

第3章:資金繰り表の基本構造(P/L誘導型)

第4章:作成手順——P/Lを資金繰り表に変換する5ステップ

当月・翌月・翌々月の月次試算表(P/L)を手元に置きます。各科目について「現金が動くのはいつか」を確認し、①現金支出あり、②現金支出なし(非現金)、③P/L外(借入・設備)に仕分けします。

取引金融機関ごとに返済予定表を入手し、毎月の元本返済額を財務支出欄に転記します。利息部分は経常支出(支払利息)に計上します。新規借入の予定がある場合は財務収入に記入します。

購入契約書・工事契約書から支払予定日と金額を確認して投資支出欄に記入します。分割払いの場合は各支払日に分けて計上します。

翌月繰越残高=前月繰越残高+当月収支差額 を月ごとに計算します。マイナスになる月が「資金対策が必要な月」です。その月の3か月前までに金融機関への相談・売掛金の早期回収交渉などの対策を実行することが原則です。

第5章:【製造業】資金繰り表の記入例

  • 月商 約1,000万円の機械部品製造業
  • 回収条件:月末締め・翌月末払い(P/Lの当月売上は翌月の収入欄へ)
  • 仕入条件:月末締め・翌月20日払い(P/Lの当月仕入は翌月の支出欄へ)
  • 社会保険料は翌月末納付・源泉所得税は翌月10日納付
  • 6月に工作機械頭金300万円支払い(リース残)
  • 借入返済:毎月元本265万円(A銀行170万円+B銀行95万円)
  • 8月に消費税中間納付180万円

月末締め翌月末払いの場合、4月のP/L売上高(例:1,000万円)は5月の「売掛金回収」欄に記入します。資金繰り表の4月収入欄には「3月のP/L売上高」の入金が記録されます。この1か月のズレが製造業の資金繰り管理の核心です。減価償却費は資金繰り表に計上しないことも忘れずに。

  • 「現預金が足りなくならないように将来の資金収支を予測する」という目的を常に理解し、必要以上に精度を求めない。
  • できるだけ、シンプルに作って、運用過程で、カスタマイズしていく。

第6章:【建設業】プロジェクト別入金管理表と資金繰り表の記入例

建設業では同時に複数の工事案件(プロジェクト)が進行し、各案件によって工期・入金条件・入金時期がバラバラなため、「今月の売上の翌月末に入金」という単純な法則が使えません。

建設業の資金繰り表作成では、まず工事案件ごとの入金スケジュールを一覧化した「プロジェクト別入金管理表」を作成します。この表を作ることで、月別の入金合計を正確に把握し、資金繰り表の経常収入欄に転記できます。

A社工場工事・B社店舗工事が進行中の5月は、外注費・材料費の支払いが集中する一方、入金は350万円しかありません。B社の完成金880万円は7月まで入りません。この「入金の谷」を事前に可視化し、手形割引・短期借入の準備や外注費の支払い条件交渉を行うことが建設業の資金繰り管理の要です。

入金管理表と並んで、主要案件の外注費・材料費の支払いスケジュールも案件別に把握します。特に大型案件は工程に合わせた支払いが発生するため、入金と支出の両面から月別のキャッシュフローを確認することが重要です。

【資金繰り表】

  • 工事受注時に入金スケジュールを即時プロジェクト別管理表に登録する:受注時点でプロジェクト別管理表に入金条件・金額・日程を記入し、資金繰り表に自動反映される仕組みを作る
  • 外注先・材料業者に対して支払い条件の調整交渉を行う:入金が遅い月の外注費支払いを「入金後10日以内払い」などに交渉することで、入金と支出のズレを縮小できる
  • 公共工事の前払金制度を積極活用する:公共工事では前払金(請負金額の30〜40%)を工事着手前に受け取れる制度がある。前払金保証会社(FCIA等)との契約が必要だが、着工前の資金流出を大幅に軽減できる

第7章:資金繰り表の読み方・危険シグナル・改善アクション

  • 経常収支が毎月マイナス:本業で現金を消費し続けている(売上不振・粗利率低下・回収遅延のいずれか)
  • 財務収支(借入)で経常収支のマイナスを補っている:本業の赤字を借金で埋めている状態。放置すると借入過多・返済不能に陥るリスク
  • 翌月繰越残高が月を追うごとに減少:数か月後に資金ショートが待っている「静かな危機」
  • 入金を早める:回収条件の短縮交渉(60日→45日)・請求書の早期発行・前払い・着工金の設定・売掛債権ファクタリング
  • 支出を遅らせる:仕入先への支払い条件延長交渉・設備投資のタイミング調整・固定費の見直し
  • 3か月前に金融機関へ相談する:融資の審査・実行には1〜2か月かかる。資金繰り表でマイナス月が見えたら、その3か月前を目安に相談を始める

第8章:月次管理サイクル——予実対比で精度を高める

最低でも向こう3か月分、できれば6か月分の資金繰り見通しを常に持っておくことが、金融機関・税理士・経営者が共通して求める管理水準です。月末に翌月分を追加する「ローリング方式」で継続的に更新しましょう。

第9章:まとめ

  • 資金繰り表はP/Lをそのまま使わず「現金ベース」に変換して作成する
  • P/L誘導の3調整:①収支タイミング(売掛・買掛のズレ)②非現金項目の除外(減価償却・引当金)③P/L外の現金移動(借入返済・設備投資)
  • 製造業:回収・支払い条件から「何月に現金が動くか」を得意先別・仕入先別に整理する
  • 建設業:まずプロジェクト別入金管理表を作成し、案件ごとの入金スケジュールを確定させてから資金繰り表に転記する
  • 建設業は外注費・材料費の支払いも案件別に把握し、入金と支出の「ズレ」を月別に可視化する
  • 公共工事は前払金制度、民間工事は着工金・中間金の設定で入金を早める交渉が有効
  • 翌月繰越残高がマイナスになる月を事前に把握し、3か月前を目安に金融機関へ相談する
  • 資金繰り表は毎月「予実対比」を行い、常に6か月先まで見通せる「ローリング方式」で更新する

資金繰り表の作成・月次財務管理のサポートはお任せください

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石水会計事務所 税理士・公認会計士・公認不正検査士       
中小企業の資金繰り支援・融資サポートを得意とする税理士。創業から事業承継まで、数字でわかる経営のお手伝いをしています。