会社法の基礎知識|起業したばかりの経営者が知っておくべき14のこと

会社法の基礎知識

会社法(2006年施行)は、会社の設立・運営・解散に関するルールを定めた法律です。株式会社・合同会社・合名会社・合資会社という4種類の会社形態をカバーしており、特に起業で選ばれる株式会社合同会社(LLC)については詳細なルールが設けられています。

会社法を一言で表すとすれば「会社という組織の憲法」です。この憲法を無視した経営判断は、取締役個人の責任問題に発展することもあります。また、会社法は、株主、経営者、債権者などの利害関係者の利害を調整する役割を担っています。


会社の設立手続き/株式の発行と管理/株主総会・取締役会のルール/会社の計算(決算)のルール/合併・解散のルール

日本で選べる会社形態は4種類ありますが、起業では株式会社合同会社が主流です。

形態出資者の責任設立コスト社会的信用
株式会社有限責任(出資額まで)約25万円〜◎ 高い
合同会社(LLC)有限責任(出資額まで)約6万円〜○ やや劣る
合名会社無限責任低い△ 少ない
合資会社無限・有限の混合低い△ 少ない

起業家に株式会社が選ばれる最大の理由は「有限責任」です。会社が倒産しても、出資者(株主)の個人財産は原則として守られます。ただし、代表取締役が銀行融資の連帯保証人になっている場合は別途、個人責任を負います。

会社の仕組みを理解するうえで最も重要なのが、この三者の関係です。起業直後は「株主=取締役=自分」という場合が多いですが、会社法上は厳然と役割が区別されています。

  • 株主(出資者):会社の所有者。株主総会を通じて重要事項を決定する権利を持つ。利益は配当として受け取る。
  • 取締役(経営者):株主から経営を委任された人。日常の業務執行を担う。株主に対して説明責任を負う。
  • 会社:株主でも取締役でもない独立した法人。契約・財産・債務はすべて「会社名義」になる。

よくある誤解:「自分の会社だから会社のお金を自由に使っていい」は間違いです。会社のお金は会社の財産であり、勝手に使うと「横領」になる可能性があります。社長個人の財布と会社の財布は必ず分けて管理しましょう。

定款(ていかん)は、会社の「憲法」ともいえる根本規則文書です。会社設立時に必ず作成し、公証役場で認証を受ける必要があります。

  • 絶対的記載事項:商号(社名)・目的・本店所在地・資本金・発行可能株式総数など。記載がなければ定款が無効になる。
  • 相対的記載事項:株式の譲渡制限・取締役の任期・役員報酬の決め方など。記載しないと効力が生じない。
  • 任意的記載事項:事業年度・社是など、会社が自由に定められる事項。

定款は設立後に変更することもできますが、株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上)が必要です。設立時に慎重に作成することが重要です。特に「事業目的」は幅広く書いておくことをお勧めします。

2006年の会社法改正により、株式会社の最低資本金規制(旧来の1,000万円)は撤廃され、現在は1円から設立可能です。しかし資本金の額は、様々な面で重要な意味を持ちます。

観点資本金の影響
税務上の扱い1,000万円未満:消費税の免税事業者になれる可能性あり(最大2年間)
社会的信用金融機関・取引先の信用審査に影響する場合がある
許認可一部業種(建設業など)は資本金要件が法定されている
登録免許税設立時の登録免許税は資本金の0.7%(最低15万円)

資本金は「会社の運転資金の元手」という性格を持ちます。少なすぎると開業直後の資金繰りが厳しくなるため、最低でも3〜6ヶ月分の固定費相当額を目安に設定することをお勧めします。

株主総会は、会社の最高意思決定機関です。「自分が100%株主の会社だから形式は関係ない」という考えは危険です。株主総会の手続きを正しく踏まないと、決議が無効になるリスクがあります。

  • 定時株主総会:毎事業年度終了後3ヶ月以内に開催義務がある(例:3月決算なら6月末まで)
  • 招集通知:原則として総会の2週間前までに株主へ通知が必要(非公開会社は1週間前まで短縮可能)
  • 議事録の作成:総会後に議事録を作成・保存する義務あり(10年間保存)

一人株主・一人取締役の場合でも:役員報酬の変更・剰余金の配当・定款変更などは株主総会の決議が必要です。議事録を作成して保存してください。税務調査でも確認される重要書類です。

取締役(社長)は、会社に対して善管注意義務(善良な管理者の注意をもって職務を執行する義務)と忠実義務を負います。これは会社法上の義務であり、違反した場合には会社や株主から損害賠償を求められることがあります。

  • 善管注意義務:経営者として通常求められる水準の注意をもって職務を遂行する義務
  • 忠実義務:会社の利益を優先し、自己や第三者の利益のために会社に不利益をもたらしてはならない義務
  • 競業避止義務:会社と同種の事業を、株主総会の承認なしに自ら行ってはならない
  • 利益相反取引の制限:会社と取締役個人の間の取引には株主総会(または取締役会)の承認が必要

「社長なのに会社から何もできないの?」と感じるかもしれませんが、これらのルールは「会社と個人を同一視しない」ための仕組みです。特に利益相反取引(自分の個人会社と自社で取引するなど)は、手続きを踏まないと後から問題になります。

起業後に最も混乱しやすいのが「会社のお金の使い方」です。会社法と税務の両面から、基本的なルールを押さえておきましょう。

役員報酬(自分への給料)

社長自身への報酬は「役員報酬」として定款または株主総会で決定。原則として期中の変更は法人税上認められない(毎月同額支給が基本)。

剰余金の配当

利益を株主に分配する場合は「配当」という手続きが必要。株主総会での決議と財源規制(分配可能額)の確認が必須。

経費の支出

事業に関連する支出は経費として計上可能。ただし「事業との関連性」の証明が必要。領収書・証憑の保管を徹底すること。

役員貸付・借入

会社と社長間の金銭の貸し借りは「役員借入金」「役員貸付金」として管理。貸付には適正な利息設定が必要で、税務上問題視される場合あり。

会社法では、すべての株式会社に対して計算書類の作成を義務付けています。「うちは小さい会社だから不要」という例外はありません。

  • 貸借対照表(B/S):決算日時点の財産状況(資産・負債・純資産)を示す
  • 損益計算書(P/L):事業年度中の収益・費用・利益を示す
  • 株主資本等変動計算書:純資産の変動を示す
  • 個別注記表:計算書類に関する補足情報

これらは定時株主総会で承認を得る必要があります。また、会計帳簿は10年間の保存義務があります。税務上の帳簿保存とあわせて適切な管理を行いましょう。

会社法監査と任意監査:大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上)は会計監査人(公認会計士)の監査が法律で義務付けられています。中小規模の会社では義務ではありませんが、融資・事業拡大を見据えた任意監査や適正な決算書作成は経営の信頼性向上に直結します。

実際の中小企業の経営現場でよく見られるリスクをご紹介します。「知らなかった」では済まされないケースばかりです。

よくある違反・リスク問題点対策
株主総会の未開催役員報酬の変更・配当が法的に無効になるリスク毎年決算後に議事録を作成・保存
会社のお金を私的流用業務上横領罪・取締役の損害賠償責任法人口座と個人口座を完全分離
取締役の無断競業会社への損害賠償責任・信頼失墜関連事業は株主総会の事前承認を取得
計算書類の不作成・未承認100万円以下の過料(行政罰)の可能性税理士と連携し決算・総会を確実に実施
役員変更登記の懈怠取締役任期(最長10年)終了後の登記を忘れると過料任期管理をカレンダー等でリマインド設定

会社法第109条は、「株式会社は、株主をその有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない」と定めています。これを株主平等原則といいます。

この原則の意味は、「すべての株主が同じ扱いを受ける」ということではありません。正確には「1株あたりの権利内容は、どの株主に対しても同一でなければならない」という意味です。100株持つ株主は1株持つ株主の100倍の議決権・配当を得られますが、同じ株を持つ株主同士を差別することは許されません。

株主平等原則が適用される具体例
剰余金の配当(持株比率に応じて等しく分配)/残余財産の分配(会社解散時も持株比率で分配)/議決権行使(1株1議決権が原則)/株主総会招集通知(すべての株主に平等に送付)

創業時に複数人で出資した場合、「自分は社長だから配当を多くもらいたい」は株主平等原則に違反する可能性があります。役員としての報酬(役員報酬)と株主としての利益(配当)は明確に区別して設計する必要があります。また、一部の株主のみに有利な条件で株式を発行・買い取る行為も問題となり得ます。

なお、会社法は種類株式(議決権のない株式・配当優先株式など)を定款で定めることを認めており、これは株主平等原則の例外として合法的に活用できます。資金調達や事業承継の場面で有効な仕組みです。

株式会社の根幹をなす重要な原則が株主有限責任の原則です。会社法第104条は「株主の責任は、その有する株式の引受価額を限度とする」と定めています。つまり、株主は出資した金額を超えて責任を負わないということです。

ケース株主の責任範囲
会社が利益を上げた場合持株比率に応じて配当を受け取れる
会社が債務超過・倒産した場合出資額(株式の取得価額)がゼロになるだけ。追加の弁済義務なし
会社が訴訟で敗訴した場合賠償は会社が負担。株主個人の財産には原則として及ばない

この原則があるからこそ、投資家は「最悪でも出資額を失うだけ」と安心して出資できます。それが資本主義経済における株式会社という仕組みの本質です。

株主有限責任は万能ではありません。以下の場合は経営者(株主)個人の責任が問われます。

銀行融資の個人保証:中小企業向け融資では、代表者が連帯保証人になることが多い。会社が倒産しても保証債務は個人に残る。
法人格の濫用・形骸化:会社を個人の財布と同一視して運営している場合、裁判所が「法人格否認の法理」を適用し、株主個人への責任追及を認めることがある。
不法行為責任:取締役個人の故意・重過失による不法行為は、会社とは別に個人責任が発生する場合がある。

会社法は、経営を委任した株主が不当に不利益を受けないよう、様々な株主保護の制度を設けています。特に少数株主(支配株主以外の株主)の権利保護が重視されています。

  • 議決権:株主総会で会社の重要事項を決定する権利。取締役の選任・解任、定款変更、合併など重大な決定に関与できる。
  • 利益配当請求権:会社の利益を配当として受け取る権利。ただし取締役が恣意的に配当ゼロにし続けることは株主保護の観点から問題となり得る。
  • 株主代表訴訟(会社法847条):取締役が会社に損害を与えたにもかかわらず会社が訴えを起こさない場合、株主が会社に代わって取締役を訴えられる制度。
  • 差止請求権:取締役が法令・定款に違反する行為をしようとする場合、株主が事前に差止めを求められる権利。
  • 帳簿閲覧権(会社法433条):議決権の3%以上を保有する株主は、会計帳簿・書類の閲覧を請求できる。
  • 株主提案権(会社法303条):議決権の1%または300個以上を保有する株主は、株主総会の議題・議案を提案できる。

起業家が押さえるべき実務ポイント:共同創業者や外部投資家に株式を付与する際は、これらの権利が自動的に発生します。特に株主代表訴訟と帳簿閲覧権は、経営に不満を持つ少数株主に活用される可能性があります。株主構成の設計と株主間契約(SHA)の整備は創業時から専門家と検討することをお勧めします。

会社の取引先・銀行・従業員など、会社に対して債権(お金を受け取る権利)を持つ人々を債権者といいます。株主有限責任の原則により株主が守られる一方、債権者は会社の財産からしか回収できません。そのため会社法は、債権者を保護するための様々なルールを設けています。

資本金・準備金制度(財源規制)

配当など株主への払戻しには「分配可能額」の上限が設けられており、会社財産を不当に流出させることを防いでいます。資本金・資本準備金・利益準備金は債権者のための「最低限の財産的基盤」として機能します。

計算書類の公示(決算公告)

株式会社は毎年、貸借対照表(大会社は損益計算書も)を官報・日刊新聞・自社ウェブサイト等で公告する義務があります(会社法440条)。債権者が会社の財務状況を確認できるようにするためです。違反した場合は100万円以下の過料。

合併・組織再編時の債権者異議申述手続き

合併・会社分割・資本金の減少などを行う際には、債権者に対して「異議があれば申し出るよう」公告・通知し、異議を述べた債権者には弁済または担保提供を行う手続きが義務付けられています。

取締役の第三者に対する責任(会社法429条)

取締役が職務執行において悪意または重大な過失があった場合、会社だけでなく取引先などの第三者(債権者を含む)に対しても直接損害賠償責任を負います。いわゆる「取締役の第三者責任」です。

中小企業では決算公告を行っていないケースが多く見受けられます。「誰も見ていないから」という理由で怠ると、過料のリスクがあるほか、IPOや M&A の際に法令遵守の問題として指摘される原因にもなります。官報公告(約6万円)またはウェブサイト掲載(無料)で対応しましょう。

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公認会計士・税理士・CFEとして、経営の「守り」と「攻め」を一緒に考えます


石水 秀治(いしみず しゅうじ)

大手監査法人にて17年間、製造業・建設業を中心とした財務デューデリジェンス、IPO支援、内部統制構築支援に従事。2025年に石水会計事務所を開設。中小企業・起業家に寄り添うアドバイザリー型の支援を提供している。