
非上場会社が増資をする場合の手順と留意点
増資(新株の発行)は、金融機関からの借入に頼らずに事業資金を調達できる有力な手段です。しかし非上場会社、とりわけ中小企業の増資には、会社法上の手続きと税務上の落とし穴が複雑に絡み合います。本記事では、増資の方法の選択から株価算定・手続き・登記・税務上の留意点まで、実務の流れに沿って解説します。また、とくに注意が必要な債務超過会社の増資についても詳しく考察します。
📋 目次
第1章:増資の方法を選ぶ
増資には大きく3つの方法があり、誰に新株を引き受けてもらうかによって手続きや税務上の取り扱いが異なります。
| 方法 | 概要 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 株主割当 | 既存株主に持株比率に応じて新株を割り当てる | 持株比率を変えずに資金調達したい場合 |
| 第三者割当 | 特定の第三者(投資家・取引先・役員等)に新株を割り当てる | 新規投資家の受け入れ・オーナーによる追加出資 |
| 公募増資 | 広く一般に新株を募集する | 非上場では原則使わない(上場準備段階等は例外) |
非上場の中小企業では第三者割当増資が最もよく使われます。オーナー自身が追加出資する場合も、法形式上は「第三者割当」として処理します。以下では主に第三者割当を念頭に解説しますが、株主割当との違いも随時示します。
株主割当と第三者割当の主な違い
| 論点 | 株主割当 | 第三者割当 |
|---|---|---|
| 持株比率の変化 | 全員が引き受ければ変化なし | 既存株主の比率が希薄化する場合あり |
| 有利発行の問題 | 原則として生じにくい | 時価より低い発行価額は「有利発行」→ 特別決議が必要 |
| みなし贈与 | 全員が比率どおり引き受ければ生じない | 発行価額が時価より低い場合に既存株主→引受人への贈与とみなされる可能性あり |
| 手続きの複雑さ | 比較的シンプル | 割当先の選定・交渉・価額算定が必要 |
⚠️ 株主割当でも注意が必要なケース
一部の株主が引受けを辞退すると、引き受けた株主の持株比率が上昇し、実質的に第三者割当と同じ状況になります。この場合、みなし贈与・有利発行の問題が生じる可能性があるため注意が必要です。また、株主が法人である場合は寄附金課税の問題も検討が必要です。
第2章:増資の手順——株主総会・払込・登記の流れ
全体スケジュール
Step 1:増資の内容を決める(事前準備)
↓
Step 2:株主総会または取締役会の決議
↓
Step 3:引受人への通知・申込・割当の決定
↓
Step 4:払込み(払込期日)
↓
Step 5:変更登記申請(払込期日翌日から2週間以内)
1増資の内容を決める(事前準備)
まず以下の項目を固めます。これらが「募集事項」として法律上定めるべき内容になります(会社法199条)。
- 発行株式数:何株発行するか
- 発行価額(払込金額):1株あたりいくらか
- 割当先:誰に引き受けてもらうか
- 払込期日:いつ払い込んでもらうか
- 資本金・資本準備金の増加額:払込金額の2分の1以上を資本金に組み入れる(残りは資本準備金)
募集事項の決定は、会社の機関設計・定款の定めによって決議機関が異なります。
| 会社の状況 | 決議機関 | 決議要件 |
|---|---|---|
| 取締役会非設置会社 | 株主総会(特別決議) | 議決権の過半数が出席し、出席議決権の3分の2以上の賛成 |
| 取締役会設置会社(定款に授権あり) | 取締役会決議 | 取締役の過半数の賛成 |
| 有利発行に該当する場合 | 必ず株主総会特別決議が必要(取締役会授権があっても不可) | |
有利発行とは、発行価額が「特に有利な金額」—実務上は時価の概ね90%未満—に該当する場合です。株主総会では取締役がその理由を説明する義務があります(会社法201条1項)。
- 会社から引受人(割当予定者)に募集事項を通知します(会社法203条)
- 引受人は株式申込書(氏名・住所・引き受ける株式数を記載)を提出します
- 取締役会(または株主総会)で誰に何株を割り当てるかを正式に決定し、引受人に割当通知を行います(会社法204条)
引受人が払込期日までに払込金額を払込取扱機関(銀行等)の口座に振り込みます。払込みが完了しなければ、その引受人の株式は失効します(会社法208条5項)。
✅ 払込口座の管理
払込みを証する書面(通帳のコピー等)は登記申請の添付書類になります。払込期日前後の入出金がわかるように、通帳の保管・コピー取得を忘れずに行ってください。
払込期日(または期間の末日)の翌日から2週間以内に法務局で変更登記を申請します(会社法915条)。
主な添付書類
- 変更登記申請書
- 株主総会議事録または取締役会議事録
- 株式申込書(引受人の申込書)
- 払込みがあったことを証する書面(通帳のコピー等)
- 資本金の額の計上に関する証明書(会計監査人・監査役等の証明が必要な場合あり)
登録免許税:増加する資本金の額 × 0.7%(最低3万円)
⚠️ 現物出資の場合は検査役の調査が原則必要
金銭以外の財産(不動産・機械・役員借入金等)を払込む現物出資の場合、原則として裁判所が選任した検査役の調査が必要です(会社法207条)。ただし、現物出資財産の価額が500万円以下であるなど一定の要件を満たす場合は省略できます。
第3章:発行価額の算定——株価をどう決めるか
非上場株式には市場価格がないため、発行価額を自分たちで算定する必要があります。算定を誤ると、有利発行・みなし贈与・寄附金課税といった税務リスクが生じます。
税務上の株価算定——財産評価基本通達
税務上の時価(みなし贈与・有利発行の判定に使う基準)は、原則として財産評価基本通達(相続税法上の評価方法)を参照します。会社の規模によって評価方式が異なります。
会社規模の判定
総資産・従業員数・取引金額(売上高等)をもとに「大会社・中会社・小会社」を判定します。
評価方式の選択
| 会社規模 | 原則的評価方式 |
|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準価額方式 |
| 中会社 | 類似業種比準価額方式 + 純資産価額方式の併用 |
| 小会社 | 純資産価額方式(または類似業種比準との選択) |
① 純資産価額方式
会社の純資産(資産-負債)を時価で評価し直して1株あたりの価値を算定します。
算定式
1株あたり純資産価額 =
(時価評価後の総資産 ― 負債 ― 評価差額に対する法人税相当額)
÷ 発行済株式総数
含み益のある不動産・有価証券を保有している会社では高くなります。なお、評価差額に対する法人税相当額(含み益の約38%)を控除するため、単純な簿価純資産よりも低くなることもあります。
② 類似業種比準価額方式
上場している同業種の株価を参考に、対象会社の「配当・利益・純資産」の3要素を比較して算定します。収益力が高い会社ほど高く評価されます。
割当先による税務上の取り扱いの違い
| 割当先 | 時価より低く発行した場合の課税 |
|---|---|
| 個人(同族関係者等) | 既存株主から引受人へのみなし贈与(相続税法9条) → 引受人に贈与税が課される |
| 役員・従業員 | 時価との差額が給与所得として課税される → 会社側で源泉徴収義務も発生 |
| 法人 | 発行会社側:寄附金扱いの可能性 引受法人側:受贈益として益金算入 |
✅ 株価算定書の取得を推奨
特に外部投資家への発行・金額が大きい案件・親族間の増資では、公認会計士・税理士等による株価算定書を取得し、発行価額の合理性を文書化しておくことが税務調査対策として有効です。算定書のない増資では、後日税務当局から発行価額の合理性を問われた際に反論が困難になります。
第4章:増資に伴う税務上の留意点
① みなし贈与(相続税法9条)
第三者割当で引受人が時価より低い価額で株式を取得した場合、既存株主から引受人へ経済的利益が移転したとみなされ、引受人に贈与税が課されることがあります。
計算例
税務上の株価(時価):1株 50,000円
発行価額:1株 20,000円 引受株式数:100株
みなし贈与額 =(50,000円 ― 20,000円)× 100株 = 300万円
→ 引受人に300万円の贈与があったとみなして贈与税が課される
② 有利発行(会社法201条)
発行価額が時価の概ね90%未満になると、有利発行として株主総会特別決議が必要になります。手続きを誤ると増資自体が無効になるリスクがあります。
③ 法人税上の寄附金課税
法人株主が債務超過会社や業績不振の子会社に増資する場合、経済的合理性がないと判断されると、払込金額が寄附金として損金算入制限を受けることがあります。ただし子会社の経営再建のために親会社が増資する場合など、合理的な経営判断として説明できれば回避できます(法基通9-4-1・9-4-2)。
④ 増資後の資本金額に注意
資本金が増加すると、以下の制度上の閾値を超える可能性があります。
| 閾値 | 超えた場合の影響 |
|---|---|
| 資本金 1,000万円 | 設立後2期の消費税免税が失われる(設立直後の増資に注意) |
| 資本金 1億円 | 中小企業向けの法人税特例(軽減税率・交際費の損金算入枠等)が適用不可になる |
| 資本金 3億円 | 一部の中小企業施策・補助金の対象外になる |
⚠️ 資本準備金への積立を活用する
払込金額の2分の1までは資本準備金に積み立てることができます(会社法445条2項)。資本準備金は資本金の閾値には影響しません。たとえば1,000万円を増資する場合、500万円を資本金・500万円を資本準備金とすることで、資本金の増加を抑えられます。
第5章:【特別解説】債務超過の場合の増資
業績不振や過去の累積赤字によって債務超過(負債が資産を超えている状態)に陥っている会社への増資は、通常の増資とは異なる論点が生じます。
① 債務超過会社の株価はゼロ
小会社の株価算定に用いる純資産価額方式では、債務超過の場合に計算結果がマイナスになります。税務上、純資産価額がマイナスになる場合の株価は「ゼロ(0円)」として扱います。
結論:1円以上で発行すれば有利発行・みなし贈与の問題は原則生じない
時価がゼロ円と評価される以上、1円以上の価額で発行すれば「時価以上での発行」となります。有利発行の株主総会特別決議も、既存株主へのみなし贈与も、原則として問題になりません。
② 最大の論点:増資後の株価回復によるみなし贈与
問題は増資の前後で生じます。増資によって債務超過が解消された場合、株価がゼロから跳ね上がります。このとき増資に参加しなかった既存株主が無償で株価上昇の利益を享受したとみなされ、引受人から既存株主へのみなし贈与が認定されるリスクがあります。
🔴 問題が生じる典型パターン
例:オーナーA(既存株主・80%)と第三者B(新規引受人・20%)
- 増資前:債務超過 → 全株主の株価 = 0円
- Bが1,000万円を払い込んで増資(B:発行済株式の一定割合を取得)
- 増資後:債務超過解消 → Aの株価が0円から大幅回復
- → BからAへの「みなし贈与」が認定されるリスク
対策①:引受人を既存株主と同一にする
オーナー自身が増資を引き受ける場合、株価回復の利益も引受人自身に帰属するため、みなし贈与の問題は生じにくくなります。債務超過の解消が目的であれば、オーナーによる追加出資が最もシンプルな方法です。
対策②:株主割当増資を全員で引き受ける
既存株主全員が持株比率に応じて引き受ける株主割当増資であれば、株価回復の利益も持株比率に応じて各株主に帰属するため、株主間の富の移転が生じません。
対策③:分割して段階的に増資する
一度に債務超過を解消するのではなく、複数回に分けて増資することで、一時的な株価の急激な回復を緩和できます。ただし、これは根本的な解決策ではなく、あくまでリスク軽減のための工夫です。
対策④:株価算定書を取得して合理性を文書化する
増資前後の株価変動について、専門家による算定書を取得し、発行価額の合理性・みなし贈与が生じない根拠を文書化しておくことが重要です。
③ DES(デット・エクイティ・スワップ)の活用
債務超過会社では、DES(役員借入金を株式に転換する方法)が増資手法として活用されます。
役員借入金(例:3,000万円)が存在する
↓
この貸付金債権を現物出資として会社に出資
↓
役員借入金が減少し、資本金・資本準備金が増加
↓
債務超過の解消・改善
DESは現金の移動なく財務体質を改善できる有力な手段ですが、以下の税務上のリスクに注意が必要です。
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| 発行価額(債権の時価) | 現物出資する債権は時価で評価するのが原則。債務超過会社への債権は額面(帳簿価額)より時価が低い場合がある |
| 債務消滅益の課税 | 債権の時価が額面を下回る場合、その差額(例:額面3,000万円・時価1,000万円 → 差額2,000万円)が会社側で債務消滅益(益金)となり法人税が課される可能性がある |
| 検査役の調査 | 現物出資なので原則として検査役の調査が必要。ただし出資財産の価額が500万円以下等の場合は省略可 |
⚠️ DESの債務消滅益に注意
債務超過会社への役員借入金は時価がゼロ(または大幅に低い)と判断される場合があります。額面3,000万円の役員借入金をDESで処理した場合、時価がゼロとされれば3,000万円の債務消滅益が発生し、会社に多額の法人税が課される可能性があります。DESを実行する前に、必ず専門家への相談をお勧めします。
④ 増資だけでは解決しない——事業改善とのセット
債務超過の原因が赤字体質・過剰債務・事業構造の問題にある場合、増資で資金を調達しても増資した資金がすぐに事業赤字で消えてしまうリスクがあります。増資はあくまで財務上の手当てであり、根本的な経営改善とセットで行うことが不可欠です。金融機関に対しても、増資に加えて実現可能性の高い経営改善計画を提示することが、融資の継続・条件改善につながります。
第6章:まとめ——増資実行前のチェックリスト
石水 秀治(いしみず しゅうじ)
公認会計士・税理士・公認不正検査士(CFE)|認定経営革新等支援機関
大手監査法人にて17年間、製造業・建設業を中心とした財務デューデリジェンス、IPO支援、内部統制構築支援に従事。2025年に石水会計事務所を開設。中小企業・起業家に寄り添うアドバイザリー型の支援を提供している。
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本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的・税務アドバイスではありません。


