試算表の読み方

第1章:試算表とは何か——作成目的と仕訳との関係

試算表(Trial Balance、略してT/B)とは、一定期間(通常は月次または年次)に行われたすべての仕訳を勘定科目ごとに集計した一覧表です。複式簿記では、すべての取引を「借方(左)」と「貸方(右)」に分けて記録します。試算表はその記録を科目別に集計し、借方合計と貸方合計が一致するかどうかを確認するために作成します。

試算表を作成する2つの目的

目的内容
①記帳の正確性の検証複式簿記の大原則「借方合計 = 貸方合計」が成立しているかを確認する。不一致があれば仕訳の誤りや転記ミスが存在する証拠
②経営状態の把握月次で試算表を作成することで、売上・費用・資産・負債の現在の状況を経営者・税理士がタイムリーに把握できる

✅ 試算表は「決算書の下書き」

試算表は最終的な決算書(損益計算書・貸借対照表)の元データです。月次で試算表を確認することで、期末の決算をスムーズに行えるだけでなく、経営上の問題を早期に発見できます。税理士は通常、毎月または四半期ごとに試算表をチェックして、税務申告や経営アドバイスの基礎資料として活用しています。

仕訳・総勘定元帳・試算表の関係

第2章:3種類の試算表の全体像と違い

試算表には3種類あり、それぞれ「何を集計するか」が異なります。

① 合計試算表

英:Total Trial Balance

各勘定科目の借方合計と貸方合計を並べた表。期間中の取引の総量(グロス)がわかる。

主な用途:記帳誤りの発見・取引規模の把握

② 残高試算表

英:Balance Trial Balance

各勘定科目の借方と貸方の差額(残高)だけを表示した表。現在の勘定残高がわかる。

主な用途:月次決算・経営分析・決算書の作成

③ 合計残高試算表

英:Combined Trial Balance

合計試算表と残高試算表をひとつにまとめた表。合計と残高の両方が一覧できる。

主な用途:税理士・会計事務所の標準的な月次報告書

第3章:【合計試算表】取引の規模を把握する

合計試算表は、各勘定科目について期間中に借方に記録された金額の合計貸方に記録された金額の合計を並べた表です。

合計試算表の構造

勘定科目合計試算表            
  借方合計     貸方合計     
資産・費用(借方残高が正常)
現金・預金3,850,0002,100,000
売掛金2,500,0001,800,000
商品(棚卸資産)1,200,000900,000
売上原価900,0000
人件費500,0000
家賃・リース150,0000
その他費用200,0000
負債・純資産・収益(貸方残高が正常)
買掛金900,0001,200,000
借入金100,000500,000
資本金01,000,000
売上高01,800,000
合計10,300,0009,300,000

⚠️ 合計試算表の「借方合計 ≠ 貸方合計」は記帳ミスのサイン

上の例では借方合計10,300,000円・貸方合計9,300,000円と不一致になっています。これは説明のための簡略例ですが、実際の試算表では借方合計と貸方合計は必ず一致しなければなりません。一致しない場合は、どこかに仕訳の誤り・転記漏れ・計算ミスがあることを示します。

合計試算表でわかること

  • 取引の総量(グロス):売掛金の借方合計は「期間中に発生した売上(掛け)の総額」、貸方合計は「期間中に回収した金額の総額」を示す。差額が期末残高
  • 資金の流れの大きさ:現金・預金の借方合計は「期間中の入金総額」、貸方合計は「出金総額」
  • 記帳の正確性の検証:全科目の借方合計=全科目の貸方合計になれば、仕訳の借方・貸方が正しくバランスしていることの確認になる

第4章:【残高試算表】現在の財政状態・損益を把握する

残高試算表は、各勘定科目の借方合計と貸方合計の差額(=残高)だけを表示した表です。残高がプラス(借方側)なら借方列に、マイナス(貸方側)なら貸方列に記入します。決算書に最も直接的につながる試算表であり、月次の経営分析に最もよく使われます

残高試算表の構造

【残高試算表の例】4月30日時点 単位:円

勘定科目残高試算表            
 借方残高     貸方残高     
貸借対照表項目(B/S)
現金・預金1,750,000
売掛金700,000
商品(棚卸資産)300,000
買掛金300,000
借入金400,000
資本金1,000,000
損益計算書項目(P/L)
売上高1,800,000
売上原価900,000
人件費500,000
家賃・リース150,000
その他費用200,000
合計4,500,0003,500,000

残高試算表の読み方—B/S項目とP/L項目を区別する

科目のグループ残高の位置(正常時)残高の意味
資産(現金・売掛金・棚卸等)借方残高期末時点での資産の残高(B/Sに直接転記)
負債(買掛金・借入金等)貸方残高期末時点での負債の残高(B/Sに直接転記)
純資産(資本金・利益剰余金等)貸方残高期末時点での純資産の残高(B/Sに直接転記)
収益(売上高等)貸方残高期間中の収益の累計額(P/Lに転記)
費用(原価・人件費・経費等)借方残高期間中の費用の累計額(P/Lに転記)

💡 残高試算表から月次の損益を即座に計算する

残高試算表のP/L項目だけを取り出せば、その時点の月次損益が把握できます。

上の例で計算すると:
売上高(貸方)1,800,000円 − 売上原価(借方)900,000円 − 人件費500,000円 − 家賃150,000円 − その他費用200,000円 = 営業利益 50,000円

第5章:【合計残高試算表】両方の情報をひとつの表で見る

合計残高試算表は、合計試算表と残高試算表を横方向に並べてひとつにまとめた表です。借方合計・貸方合計・借方残高・貸方残高の4列が1行に並びます。日本の税理士・会計事務所が月次報告書として経営者に提出する際に最もよく使われる形式です。

合計残高試算表の構造

勘定科目合計         残高         
借方貸方   借方   貸方   
B/S項目
現金・預金3,850,0002,100,0001,750,000
売掛金2,500,0001,800,000700,000
商品(棚卸資産)1,200,000900,000300,000
買掛金900,0001,200,000300,000
借入金100,000500,000400,000
資本金01,000,0001,000,000
P/L項目
売上高01,800,0001,800,000
売上原価900,0000900,000
人件費500,0000500,000
家賃・リース150,0000150,000
その他費用200,0000200,000
合計10,300,0009,300,0004,600,0003,500,000

合計残高試算表を「2つの視点」で読む

視点見るべき列わかること
取引の規模・流れ「合計」の借方・貸方売掛金の回収状況(発生額 vs 回収額)・現金の入出金の総量・買掛金の発生と支払の動き
現時点の財政状態・損益「残高」の借方・貸方各資産・負債の残高・当月の累計売上高・費用の累計額・概算の当期損益

第6章:試算表の読み方——勘定科目ごとのチェックポイント

試算表を受け取ったとき、経営者・経理担当者はどこを見ればよいでしょうか。主要な勘定科目ごとのチェックポイントをまとめます。

【現金・預金】手元資金の動きを確認する

  • 残高が前月より大幅に減っていないか:資金繰りの悪化サイン。残高が月商の0.5か月分を下回ったら要注意
  • 合計欄:入金合計(借方)と出金合計(貸方)の比率:出金が入金を大きく上回っていれば現金流出が続いている
  • 通帳残高と一致しているか:月次で通帳と照合することが基本。不一致は横領・記帳誤りの可能性

【売掛金】回収状況を確認する

  • 残高が積み上がっていないか:売掛金残高が増え続けている場合、回収できていない(不良債権化)可能性がある
  • 合計欄:発生額(借方)と回収額(貸方)の比較:回収額が発生額を大きく下回っていれば回収遅延が疑われる
  • 売上高との比率(売上債権回転日数):売掛金残高 ÷ 月次売上高 × 30日で「何日分の売掛金が残っているか」を計算できる

【売上高】売上の進捗を確認する

  • 月次の売上高は予算・前月・前年同月と比べてどうか:単月の数字だけでなく、累計(期首からの合計)で判断する
  • 売上原価との比率(粗利率):(売上高 − 売上原価)÷ 売上高。前月・前年と比べて粗利率が下がっていれば、仕入コストの上昇や値引き販売が増えているサイン

【買掛金・未払金】支払い義務を確認する

  • 残高が前月より急増していないか:支払い遅延や未処理の請求書がないか確認する
  • 月次の支払いサイクルと一致しているか:例えば月末締め翌月末払いであれば、前月の仕入金額と当月の支払金額が対応しているか確認する

【借入金】返済状況を確認する

  • 毎月の元本返済が正しく処理されているか:借入金の貸方には新規借入、借方には元本返済が記録される。残高が返済予定表と一致しているか確認する
  • 支払利息(費用)との分離:借入金勘定には元本のみ。利息は支払利息(費用)に計上されているか確認する

第7章:試算表で見つかる「異常値」の見極め方

貸借逆転——「マイナス残高」に注意

通常、資産科目は借方残高、負債科目は貸方残高になります。これが逆転(資産科目が貸方残高、負債科目が借方残高)している場合は、仕訳の誤りまたは異常な取引が発生しているサインです。

科目正常な残高側逆転した場合に考えられる原因
現金借方(正残高)出金仕訳の誤り・現金残高のマイナス計上(現金はマイナスになり得ない)
売掛金借方(正残高)過剰回収の記帳・前受金と混同
買掛金貸方(正残高)過剰支払いの記帳・前払金と混同
借入金貸方(正残高)元本返済を超えた仕訳・誤った科目使用

急激な増減—前月比較で異常を発見するー

💡 試算表は「前月比較」で読む——数値の変化に注目する

  • 売上高が突然ゼロまたは急減:売上計上漏れ・請求書の発行遅延の可能性
  • 費用が突然急増:二重計上・誤った科目への記帳・不正支出の可能性
  • 現金残高が前月から大幅減:出金処理の集中・横領・資金繰りの悪化
  • 売掛金残高の増加が続く:回収できていない売掛金の蓄積(不良債権化リスク)
  • 前払費用・仮払金が長期間残っている:精算漏れ・誤記帳の可能性

第8章:試算表と決算書(P/L・B/S)の関係

試算表(特に残高試算表)は、決算書の直接的な元データです。月次の試算表を積み重ねることで、期末に決算整理仕訳を加えれば決算書が完成します。

試算表の科目グループ対応する決算書転記の方法
収益科目(売上高・受取利息等)の残高損益計算書(P/L)貸方残高をそのまま P/L の収益欄へ
費用科目(売上原価・人件費・経費等)の残高損益計算書(P/L)借方残高をそのまま P/L の費用欄へ
資産科目(現金・売掛金・固定資産等)の残高貸借対照表(B/S)借方残高をそのまま B/S の資産欄へ
負債科目(買掛金・借入金等)の残高貸借対照表(B/S)貸方残高をそのまま B/S の負債欄へ
純資産科目(資本金・利益剰余金等)の残高貸借対照表(B/S)貸方残高をそのまま B/S の純資産欄へ

✅ 試算表の「借方残高合計 = 貸方残高合計」はなぜ成立するか

残高試算表の借方残高合計(資産+費用)と貸方残高合計(負債+純資産+収益)が一致するのは、複式簿記の基本等式「資産 = 負債 + 純資産」が成立しているからです。費用と収益の差額(当期損益)が純資産に加算されることで、常にバランスが保たれます。試算表でこのバランスが崩れていれば、必ず仕訳に誤りがあります。

月次試算表を活用した「期中の経営管理」

活用場面試算表の使い方
月次の損益把握残高試算表のP/L科目から当月の売上・費用・損益を計算し、予算・前年同月と比較する
資金繰り管理現金・預金の残高推移・売掛金の残高増減を毎月確認し、資金繰り表と照合する
金融機関への提出資料融資申請・返済条件の見直し等の際、月次試算表は直近の経営状況を示す重要資料
税務の事前確認期末の税務申告前に試算表で概算税額を把握し、納税資金の準備や節税対策の検討に活用する

第9章:まとめ

  • 試算表とは、すべての仕訳を勘定科目ごとに集計した一覧表。記帳の検証と経営状態の把握の2つが目的
  • 合計試算表は「借方合計・貸方合計」を表示。取引の総量と記帳誤りの検証に使う
  • 残高試算表は「借方と貸方の差額(残高)」だけを表示。月次損益・残高確認・決算書作成に最も直接的に使う
  • 合計残高試算表は上の2つを統合した表。税理士報告書として最も広く使われる形式
  • 残高試算表の借方残高合計と貸方残高合計は必ず一致する。不一致は仕訳誤りの証拠
  • 資産・費用科目は借方残高が正常。負債・純資産・収益科目は貸方残高が正常
  • 試算表は「前月比較」で読む。急増・急減・逆転残高が異常値のサイン
  • 残高試算表のP/L科目残高から、月次の売上・費用・損益をその場で計算できる
  • 月次試算表は経営判断・資金繰り管理・金融機関への説明資料として実務上不可欠
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石水 秀治(いしみず しゅうじ)

大手監査法人にて17年間、製造業・建設業を中心とした財務デューデリジェンス、IPO支援、内部統制構築支援に従事。2025年に石水会計事務所を開設。中小企業・起業家に寄り添うアドバイザリー型の支援を提供している。