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損益分岐点分析
—中小企業が使う固定費・変動費・CVP分析の基本ー
「何個売れば赤字にならないか」を数値で把握する経営の基本ツール
「毎月どれだけ売れば利益が出るのか」「固定費を削減したら損益はどう変わるか」——これらの問いに答えるのが損益分岐点分析(CVP分析)です。売上・コスト・利益の関係を定量的に把握するこの手法は、予算策定・価格設定・固定費管理・経営判断のあらゆる場面で活用できます。本記事では、固定費・変動費の概念から損益分岐点の計算方法、実際の中小企業への活用方法まで、数値例を交えてわかりやすく解説します。
📋 目次
第1章:損益分岐点分析とは何か——CVP分析の概要
損益分岐点(Break-Even Point、BEP)とは、売上高と総費用がちょうど等しくなる点、すなわち利益がゼロになる売上高(または販売数量)のことです。この点を下回ると赤字、上回ると黒字になります。
損益分岐点分析はCVP分析(Cost-Volume-Profit Analysis)とも呼ばれ、コスト(Cost)・販売量(Volume)・利益(Profit)の三者の関係を定量的に把握する管理会計の基本手法です。
| 分析で答えられる問い | 具体例 |
|---|---|
| 月商がいくら以上あれば黒字か | 固定費300万円・限界利益率60%なら、BEP売上高は500万円 |
| 目標利益を達成するには何個売ればよいか | 利益100万円を出すには、BEPに加えて何個売る必要があるか |
| 固定費を削減するとBEPはどう変わるか | 家賃を50万円削減するとBEP売上高はどれだけ下がるか |
| 値上げ・値下げの損益への影響 | 10%値上げすると限界利益率が上がりBEPが下がる |
| 現在の売上はBEPからどれだけ余裕があるか | 安全余裕率(現売上 − BEP売上)÷ 現売上 で把握する |
✅ 損益分岐点分析は「経営の地図」
P/L(損益計算書)は過去の結果を示す「後ろを向いた書類」ですが、損益分岐点分析は「これだけ売れば大丈夫」という前向きな目標設定ツールです。毎月の試算表と組み合わせることで、「今月の売上はBEPから何円余裕があるか(または何円不足しているか)」をリアルタイムで把握できます。
第2章:固定費と変動費——コストの2分類
CVP分析の前提として、すべての費用を固定費と変動費の2種類に分類します。この分類が分析精度を左右する最も重要なステップです。
定義:売上高・販売数量に関係なく、毎月一定額が発生するコスト
主な例:
- 家賃・事務所賃料
- 役員報酬・正社員の給与
- リース料・減価償却費
- 保険料・通信費(固定部分)
- 借入金の元本返済・利息
- 広告宣伝費(定期掲載分)
定義:売上高・販売数量に比例して増減するコスト
主な例:
- 売上原価(仕入・材料費)
- 外注費・業務委託費(案件連動分)
- 販売手数料・紹介料
- 配送費・梱包費
- アルバイト・パートの人件費(シフト連動)
- 消耗品費(生産量連動分)
固定費・変動費の分類が難しい「準固定費・準変動費」
実際のコストには、固定費とも変動費とも言い切れない性質のものがあります。
| コストの種類 | 内容 | 分類の扱い |
|---|---|---|
| 準固定費 (段階的固定費) | 一定の生産量を超えると突然増加するコスト。例:従業員を1人増やすと固定費が一段上がる | 分析の前提となる売上水準での固定費額を使用する |
| 準変動費 (半変動費) | 固定部分と変動部分の両方を持つコスト。例:電気代(基本料金+使用量に応じた従量料金) | 固定部分を固定費、変動部分を変動費に分解して処理する |
⚠️ 「人件費は固定費か変動費か」——中小企業でよくある論点
正社員・役員の給与は売上に関係なく発生するため固定費に分類するのが原則です。一方、シフトで調整できるアルバイト・パートの人件費は売上に応じて変動するため変動費として扱うことが多い。ただし実際には固定的に雇用されているアルバイトも多く、自社の実態に合わせて判断することが重要です。「どちらに分類するかで分析結果が変わる」という意識を持って分類してください。
高固定費型 vs 高変動費型—ビジネスモデルの違いー
| タイプ | 特徴 | 典型的な業種 | BEPの性質 |
|---|---|---|---|
| 高固定費型 | 固定費が大きく変動費が小さい。BEPを超えると急速に利益が増える(レバレッジが高い) | 製造業・ホテル・航空・SaaS | BEP売上高が高い。売上変動リスクが大きい |
| 高変動費型 | 固定費が小さく変動費が大きい。BEPは低いが売上が伸びても利益の増加幅が小さい | 商社・卸売・仲介業 | BEP売上高が低い。売上変動リスクが小さい |
第3章:限界利益と限界利益率—CVP分析の核心ー
CVP分析を理解するうえで最も重要な概念が限界利益(Contribution Margin)です。
限界利益の定義
限界利益 = 売上高 − 変動費
限界利益率(%)= 限界利益 ÷ 売上高 × 100
限界利益は、固定費を回収し、最終的に利益を生み出すための原資です。「売上が1円増えたときに増える利益」とも言い換えられます。限界利益率が高いほど、売上が増えたときの利益の増え方が大きくなります。
限界利益・営業利益・粗利益の違い
| 概念 | 計算式 | 用途 |
|---|---|---|
| 粗利益(売上総利益) | 売上高 − 売上原価 | P/L上の区分。売上原価のみを控除(販管費は含まない) |
| 限界利益 | 売上高 − 変動費(売上原価のうち変動費+変動販管費) | CVP分析専用。固定費・変動費の分類に基づく |
| 営業利益 | 売上高 − 売上原価 − 販売費・一般管理費 | P/L上の最終的な本業の利益 |
💡 限界利益の「限界」とは?
「限界」は経済学の「限界(Marginal)」——「追加の1単位」という意味です。「もう1個売ったとき、利益がいくら増えるか」を表すのが限界利益です。例えば商品1個の売価が1,000円、変動費(仕入・材料)が400円なら、1個売るごとに限界利益が600円積み上がります。この600円が積み重なって固定費300万円を超えた瞬間から、黒字になります。
具体例:限界利益の計算
【前提条件】飲食店(月次)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 月次売上高 | 4,000,000円 |
| 食材費(変動費) | 1,200,000円 |
| アルバイト人件費(変動費) | 400,000円 |
| 正社員給与(固定費) | 800,000円 |
| 家賃(固定費) | 300,000円 |
| その他固定費 | 200,000円 |
【計算結果】
| 項目 | 金額・率 |
|---|---|
| 売上高 | 4,000,000円 |
| 変動費合計 | 1,600,000円 |
| 限界利益 | 2,400,000円 |
| 限界利益率 | 60% |
| 固定費 | 1,300,000円 |
| 営業利益 | 1,100,000円 |
限界利益率60%は「売上が100円増えると、60円が固定費の回収や利益に充てられる」ことを意味します。
第4章:損益分岐点の計算方法—公式と具体例ー
損益分岐点売上高の公式
損益分岐点売上高(BEP売上高)
BEP売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
「固定費をすべて回収するためには、いくらの売上が必要か」を計算する
先の飲食店の例で計算します。
【飲食店の計算例】
BEP売上高 = 1,300,000円 ÷ 0.60 = 2,166,667円(約217万円)
月商217万円を超えれば黒字、下回れば赤字。現在の月商400万円はBEPの約1.8倍の余裕がある
損益分岐点販売数量の公式
損益分岐点販売数量(BEP数量)
BEP数量 = 固定費 ÷ (単価 − 単位変動費)
分母の「単価 − 単位変動費」= 1個あたりの限界利益(単位限界利益)
製品1種類の具体例:製造業
【前提条件】金属部品製造業(月次)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 販売単価 | 5,000円/個 |
| 単位変動費(材料・加工費) | 2,000円/個 |
| 固定費合計(月次) | 1,500,000円 |
※実際売上高400万円(5,000円×800個)
【計算結果】
| 項目 | 金額・数量 |
|---|---|
| 単位限界利益 | 3,000円/個 |
| 限界利益率 | 60% |
| BEP数量 | 500個 |
| BEP売上高 | 2,500,000円 |
月500個(月商250万円)が損益分岐点です。501個目から1個売るごとに3,000円の利益が発生します。
✅ 損益分岐点を「日数」で把握するとさらに使いやすい
月の営業日数で割ることで「月の何日目に黒字転換するか」がわかります。例えばBEP売上高250万円・月商500万円の場合、1日あたり売上は500万円÷25日営業=20万円。BEP日数は250万円÷20万円=12.5日。月の13日目から黒字になるということです。「今月はすでに黒字転換したか」をリアルタイムで把握する指標として使えます。
第5章:損益分岐点グラフの読み方
損益分岐点グラフ(BEPグラフ)は、横軸に売上高(または販売数量)、縦軸に金額(費用・売上・利益)をとった折れ線グラフです。

グラフの各要素の読み方
| 要素 | 内容 | 読み方のポイント |
|---|---|---|
| 固定費ライン(水平線) | 売上高ゼロでも発生する費用(縦軸の切片) | この線が高いほどBEPが高く、固定費負担が重い |
| 総費用ライン(斜め線) | 固定費+変動費の合計。傾き=変動費率 | 傾きが急なほど変動費率が高く、売上増加時の利益が出にくい |
| 売上高ライン(原点からの直線) | 傾き=1(45度線) | この線と総費用ラインが交わる点がBEP |
| 損失ゾーン(BEP左側) | 売上高<総費用。赤字の領域 | 面積が大きいほど赤字幅が大きい |
| 利益ゾーン(BEP右側) | 売上高>総費用。黒字の領域 | 限界利益率が高いほど利益の増加が急角度で大きくなる |
| 安全余裕(矢印部分) | 現在の売上高 − BEP売上高 | この余裕が小さいほど売上が少し減っただけで赤字になるリスクが高い |
第6章:実務での活用例—目標利益・感度分析・安全余裕率ー
① 目標利益を達成するための必要売上高
目標利益達成のための必要売上高
必要売上高 = (固定費 + 目標利益) ÷ 限界利益率
先の製造業の例で「月100万円の営業利益を出したい」場合:
必要売上高の計算例
(150万円 + 100万円) ÷ 0.60 = 416万円
月商416万円を達成すれば、営業利益100万円が実現する
② 感度分析—「もしも」の影響を数値で把握するー
感度分析(Sensitivity Analysis)とは、ある条件が変化したとき、BEPや利益がどう変わるかを計算する手法です。
| シナリオ | 変更内容 | BEP売上高 | 月商400万円時の利益 | 基本ケースとの比較 |
|---|---|---|---|---|
| 【基本ケース】 | 固定費150万円・変動費率40% | 250万円 | 90万円 | 基準 |
| 固定費削減 | 家賃を30万円削減→固定費100万円 | 167万円 | 140万円 | +50万円の利益改善 |
| 値上げ(5%) | 売価を5%引き上げ→限界利益率65% | 230万円 | 110万円 | +20万円の利益改善 |
| 売上10%減 | 月商400万円→360万円 | 250万円(変わらず) | 66万円 | ▲24万円の利益悪化 |
| 仕入コスト上昇 | 変動費率40%→45% | 272万円 | 70万円 | ▲20万円の利益悪化 |
| 固定費増加+値下げ | 固定費170万円・変動費率42% | 293万円 | 62万円 | ▲28万円の利益悪化 |
💡 感度分析の実務的な使い方
感度分析は「最悪のシナリオでも経営が成り立つか」を確認するために使います。例えば:
- 固定費増加(人を増やす・移転する):BEPが何円上がるかを計算し、その売上増加が実現できるかを検討する
- 仕入価格上昇:値上げが難しい場合、利益減少額を計算して「受け入れられる原価上昇の限界」を把握する
- 売上減少時のストレステスト:「売上が20%減ったとき赤字になるか」を事前に確認しておく
③ 安全余裕率—経営の「余裕度」を測るー
安全余裕率(Margin of Safety)
安全余裕率(%)= (現売上高 − BEP売上高) ÷ 現売上高 × 100
「売上が何%減少すると赤字になるか」を示す指標。高いほど経営が安定している
| 安全余裕率の水準 | 経営状態の目安 | 対応方針 |
|---|---|---|
| 30%以上 | 余裕あり。安定経営 | 成長投資・固定費増加も検討可 |
| 15〜30% | 標準的な水準 | 継続的な改善を維持する |
| 5〜15% | 注意水域 | 固定費削減・売上拡大の具体策を立てる |
| 5%未満 | 危険水域 | 緊急の固定費見直し・金融機関への相談 |
| マイナス(BEP超過) | 赤字経営 | 抜本的な構造改革が必要 |
先の製造業の場合:安全余裕率 = (400万円 − 250万円) ÷ 400万円 × 100 = 37.5%。非常に余裕のある状態です。
第7章:業種別の固定費・変動費の考え方
| 業種 | 主な固定費 | 主な変動費 | BEPの特徴 |
|---|---|---|---|
| 飲食業 | 家賃・正社員人件費・光熱費基本料金・設備リース | 食材費(売上の25〜40%)・アルバイト人件費・消耗品 | 家賃・人件費の固定費負担が重い。BEPは月商の40〜60%が多い |
| 小売業 | 店舗賃料・正社員人件費・システム費 | 商品仕入原価(売上の60〜70%)・包装材・決済手数料 | 変動費率が高く限界利益率が低い。大量販売が前提になる |
| 製造業 | 工場賃料・設備減価償却費・正社員人件費・保険料 | 材料費・加工外注費・生産量連動の水道光熱費 | 設備投資で固定費が高くなりやすい。稼働率管理が重要 |
| 建設業 | 役員報酬・正社員人件費・重機リース(固定分)・事務所賃料 | 外注費・材料費・現場ごとの雇用(日雇い・臨時) | 案件ベースで収支が変動する。工事ごとのCVP分析が有効 |
| サービス業 (コンサル・士業等) | 人件費(ほぼ全額)・事務所賃料・システム費 | 交通費・外注費(案件依存分)・消耗品 | 変動費が少なく限界利益率が高い。人件費固定費の回収が鍵 |
| 卸売・商社 | 人件費・事務所賃料・システム費 | 商品仕入原価(売上の75〜90%)・配送費・手数料 | 限界利益率が低く薄利多売型。売上規模の確保が必須 |
⚠️ 建設業・製造業は「案件別CVP分析」が有効
建設業や受注型製造業では、会社全体のBEP分析に加えて、個々の案件(工事・受注)ごとの限界利益を計算することが重要です。「この工事を受注すると、固定費の回収にいくら貢献するか」を数値化することで、採算割れの仕事を受けてしまうリスクを防げます。限界利益がゼロに近い(またはマイナスの)案件は、たとえ売上が立っても会社の損益を悪化させます。
第8章:CVP分析の限界と注意点
CVP分析は強力なツールですが、いくつかの前提条件と限界があります。実務で活用する際には注意が必要です。
| 限界・注意点 | 内容 | 実務での対処法 |
|---|---|---|
| ①コストの線形性の仮定 | 固定費は常に一定、変動費は売上に完全比例するという前提は、実際には成立しないことが多い(量的割引・段階的固定費等) | 分析対象となる売上水準の範囲(適切な操業水準)を限定して使用する |
| ②単一製品・単一価格の前提 | 複数製品を販売している場合、製品ミックスの変化によって限界利益率が変動する | 製品別の限界利益率を把握し、売上構成比の変化に応じて加重平均限界利益率を再計算する |
| ③在庫変動を無視 | 生産量と販売量が一致する前提。製造業では在庫変動によりP/Lの利益とCVP上の利益が異なることがある | 在庫変動が大きい場合は直接原価計算の概念を適用する |
| ④固定費・変動費の分類の主観性 | 人件費・光熱費等の分類方法によって分析結果が大きく変わる | 自社の実態に即した一貫した分類ルールを設けて継続使用する。税理士と相談して分類基準を確定する |
| ⑤非財務要因を考慮しない | 品質・顧客満足度・従業員モチベーション等は数値化されない | CVP分析は財務的判断の一材料として使い、非財務要因と合わせて総合的に判断する |
第9章:まとめ
石水 秀治(いしみず しゅうじ)
公認会計士・税理士・公認不正検査士(CFE)|認定経営革新等支援機関
大手監査法人にて17年間、製造業・建設業を中心とした財務デューデリジェンス、IPO支援、内部統制構築支援に従事。2025年に石水会計事務所を開設。中小企業・起業家に寄り添うアドバイザリー型の支援を提供している。
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本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的・税務アドバイスではありません。


