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2026年版 小規模企業白書を読む
—「経営リテラシー」を高めて事業を維持・拡大するー
第221回国会(特別会)提出・全国5万社調査が明かす小規模事業者の実態と処方箋
中小企業庁が毎年国会に提出する「小規模企業白書」の2026年版(令和7年度小規模企業の動向・令和8年度小規模企業施策)が2026年4月に公表されました。250ページにわたる本白書のキーワードは「経営リテラシー」。原価管理・労務管理・品質管理・経営計画という基本的な経営知識の実践が業績に明確な差をもたらすことが、全国5万社の調査データで実証されています。税理士・公認会計士の視点で、小規模事業者の経営者に役立つポイントをわかりやすく解説します。
📄 出典:中小企業庁「令和7年度小規模企業の動向・令和8年度小規模企業施策(2026年版小規模企業白書)」(2026年4月9日、第221回国会(特別会)提出)。調査:デロイトトーマツ「令和7年度小規模事業者の経営課題と事業活動に関する調査」(全国5万社・有効回答12,215社)。本記事は白書の内容を要約・解説したものです。
📋 目次
第1章:2026年版白書の全体像——今年のテーマ「経営リテラシー」
2026年版小規模企業白書のテーマは「小規模事業者の経営リテラシー向上と企業間連携による事業の維持・拡大」です。小規模企業振興基本法第12条に基づく年次報告書で、2026年版で12回目を迎えます。
✅ 白書のメッセージを3行で要約
- 課題:経営環境の転換期において、現状維持は最大のリスク。賃上げ原資の確保と人手不足克服が急務
- 解決策の土台:「経営リテラシー」(原価管理・労務管理・品質管理・経営計画等の基本的経営知識)を高めること
- 補完策:経営資源が乏しい小規模事業者は「企業間連携」で強みを掛け合わせ、弱みを補い合う
| 白書の構成 | 主なテーマ |
|---|---|
| 第1部 第1章 | 中小企業・小規模事業者の業況・売上・利益・賃金・人手不足・DX・価格転嫁・M&A等(中小企業白書と共通) |
| 第1部 第2章 | 共通価値(ESG・人権尊重・BCP策定) |
| 第2部 第1節 | 小規模事業者の業績動向(法人・個人企業別) |
| 第2部 第2節 | 4つの経営リテラシー(財務・会計/組織・人材/運営管理/経営戦略)の取組状況と効果 |
| 第2部 第3節 | 企業間連携の取組状況と効果 |
| 施策編 | 令和7年度に講じた小規模企業施策の概要 |
第2章:第1部——小規模事業者の業績動向
法人企業:売上は増加も個人企業は横ばい
中小企業庁「中小企業実態基本調査」を用いた小規模事業者の業績分析では、業態によって明確な違いが見えます。
| 区分 | 売上高の傾向 | 経常利益の傾向 |
|---|---|---|
| 小規模事業者(法人) | 直近3年間でほぼ全業種で増加。卸売業が最も高く、次いで運輸業・建設業 | 足下では増加傾向にある |
| 小規模事業者(個人企業) | おおむね横ばいで推移 | おおむね横ばいで推移 |
| 中規模企業(法人) | 足下で増加傾向 | 足下では増加傾向 |
⚠️ 個人企業の売上・利益が横ばいの構造的背景
小規模事業者の個人企業では、売上高・経常利益ともにおおむね横ばいが続いています。白書のデータが示す「経営リテラシーの低さ」(原価管理未実施・試算表非作成・経営計画未策定等)が業績停滞と相関していることが本白書の核心メッセージです。逆に言えば、これらの基本的な取り組みを始めるだけで、業績改善につながる可能性があります。
第3章:第2部——4つの「経営リテラシー」
白書は小規模事業者に求められる経営リテラシーを4つに大別し、全国5万社・有効回答12,215社の調査データを使って取り組みの有無による業績差を実証しています。
主な取り組み
- 原価管理(製品・商品・サービス別の原価把握)
- 資金繰り計画の策定
- 試算表の月次作成
- クラウド会計ソフトの活用
主な取り組み
- 従業員の労務管理(長時間労働防止・有休促進)
- 勤怠管理のデジタル化
- 組織活性化(賃上げ・柔軟な働き方・社内コミュニケーション)
主な取り組み
- 品質を担保するための管理(チェック体制・定期見直し)
- 社内ノウハウの蓄積・共有
- マニュアル・手順書の整備
主な取り組み
- 経営計画の策定・社内共有・進捗確認(PDCAサイクル)
- 外部環境の情報収集
- 差別化・マーケティング
- ECサイト・SNS・知財権の活用
第4章:財務・会計リテラシー——原価管理が価格転嫁を左右する
経理体制の実態——売上が小さいほど「経営者自ら」が担う
白書によると、売上高規模が小さい事業者ほど「経営者」が主な経理業務担当者と回答した割合が高く、また売上高1千万円以下の事業者では約5割がExcel等の表計算ソフトまたは紙の帳簿を使用しています。
約5割
売上1千万円以下でExcelまたは紙の帳簿使用
約6割
クラウド会計の月額費用が「無料または1万円以下」
1位
クラウド会計導入効果:「経理業務時間の削減」
原価管理の取り組みが価格転嫁率に直結
白書の最も重要なデータのひとつが、原価管理と価格転嫁の相関です。
| 原価の把握状況 | 価格転嫁できなかった割合 | 主な効果(詳細に把握している事業者) |
|---|---|---|
| 製品・商品・サービス別に把握している(約5割) | 低い(転嫁率が高い) | ①適正な価格設定ができるようになった、②コスト・業務フローの見直し、③販売先・仕入先の見直し |
| 全社単位または事業単位で把握 | 中程度 | — |
| ほとんど把握していない(約3割) | 4割超が「価格転嫁できなかった」と回答 | — |
💡 「原価管理」は難しくない——簡易計算・主要商品に絞った分析から始められる
白書で紹介されている明治屋醤油株式会社の事例では、「一つの工場で多種類の商品を製造しているため個々の原価計算は難しい」と諦めていたところを、商工会の経営指導員のサポートのもと「簡易的な計算から始める・主要商品に絞って計算する」という方法で着手したところ、売上高9割を占めていた業務用醤油が赤字であることが判明し、経営の方向転換につながっています。
試算表の作成頻度——売上が小さいほど低頻度または未作成
月次の試算表作成は経営判断の基本ですが、白書によると売上規模が小さい事業者ほど試算表の作成頻度が低く、「作成していない」と回答した割合も高い傾向が確認されました。月次試算表を作成し、実績をタイムリーに確認することが経営改善の第一歩です。
第5章:組織・人材リテラシー——労務管理と組織活性化が採用力を高める
勤怠管理はまだアナログが主流
小規模事業者の勤怠管理方法を白書が調査したところ、約5割が「紙への手書き」、約3割が「Excelなどの表計算ソフト」と回答しており、クラウド型の勤怠管理システムの普及はまだ限定的です。
労務管理への取り組みが採用成功率を左右する
従業員の長時間労働防止や有給休暇の取得促進(労務管理)に取り組んでいる事業者は、取り組んでいない事業者より「予定人数に到達した採用」を実現した割合が高いことが確認されています。
組織活性化——賃上げ・柔軟な働き方・コミュニケーション改善が効果的
組織活性化(従業員の働きがい・エンゲージメントの維持・向上)に取り組んでいる事業者は全体の約4割。取り組み内容として多かったのは①賃金・賞与の引き上げ、②柔軟な働き方の導入、③社内コミュニケーションの活性化の順です。組織活性化に取り組んでいる事業者は、売上高・営業利益率ともに「増加・上昇」と回答した割合が高く、業績向上への効果が示されています。
第6章:運営管理リテラシー——品質管理とノウハウ共有が利益率を押し上げる
品質管理——7割が取り組むが、「定期的見直し」で差がつく
全体の約7割の小規模事業者が品質を担保するための管理に取り組んでいます。さらに、品質管理に取り組んでいる事業者のうち9割超が「定期的な見直し」も実施しており、定期的に見直している事業者は、そうでない事業者より営業利益率の上昇・顧客数の増加を実現している割合が高いことが確認されています。
社内ノウハウの蓄積・共有——属人化防止が業績改善と残業削減に
全体の約5割が社内ノウハウの蓄積・共有に取り組んでいます。最も有効だった取り組み内容は①マニュアル・手順書の整備、②社員同士の交流機会の提供、③社内勉強会・研修の実施の順です。
💡 ノウハウ共有の効果——「担当者不在でも業務が回る」が最多
ノウハウ共有に取り組んでいる事業者が実感した効果として最も多かったのは「担当者不在時でも業務が滞りなく遂行できるようになった」で、次いで「業務の引継ぎが円滑に行えるようになった」「製品・商品・サービスの品質が安定した」が続きます。また、ノウハウ共有に取り組んでいる事業者は、売上高・営業利益率の増加・上昇だけでなく、従業員の月平均残業時間の削減にも成功している割合が高いことが示されています。
第7章:経営戦略リテラシー——経営計画とマーケティングが業績を分ける
経営計画の策定——取り組んでいるのはわずか2割
「経営計画を策定しており、社内で共有している」または「策定しているが共有していない」と回答した事業者は全体の約2割にとどまっています。多くの小規模事業者が経営計画を持っていない実態が明らかになっています。
しかし白書のデータは、経営計画策定の効果を明確に示しています。
| 状況 | 業績への影響(白書調査) |
|---|---|
| 経営計画を策定している | 売上高・営業利益率ともに「増加・上昇」と回答した割合が高い |
| 策定+社内で共有している | 「策定したが共有していない」より効果が高い |
| 策定+実績と進捗確認している | 「確認していない」より効果が高い。「確認していない」の約3割は「ほとんど効果なし」 |
| 策定+支援機関に相談した | 「相談していない」より効果が高い。「相談していない」の約2割は「ほとんど効果なし」 |
✅ 経営計画は「策定→共有→進捗確認→支援機関との相談」の4セットが効果を最大化する
経営計画を作るだけでは不十分です。白書のデータは、①社内で共有する、②実績と計画を定期的に比較する(PDCAサイクル)、③税理士・商工会等の支援機関に相談しながら策定する——という3つが重なることで、業績向上効果が大幅に高まることを示しています。
マーケティング——外部情報収集+差別化の組み合わせが業績向上に
外部環境の情報収集と差別化への取り組みを両方行っている(マーケティングに取り組んでいる)事業者は約6割で、それ以外の事業者より売上高・営業利益率・顧客数のすべてで「増加・上昇」と回答した割合が高い結果となっています。差別化の要素としては、リピート客が多い事業者では「技術・品質の優位性」「柔軟な顧客対応力」を、新規客が多い事業者では「希少性・限定性」「地域性・文化的背景」を重視する傾向があります。
また、BtoC主体の小規模事業者を中心に、ECサイト・予約サイト・SNS(Instagram・LINE等)による広告・マーケティングが売上増加につながっている可能性が示されました。
第8章:企業間連携——経営資源の限界を超える手段
全体の約2割の小規模事業者が企業間連携(共同仕入・共同開発・共同生産・共同販売等)に取り組んでいます。業種別では情報通信業・運輸業・製造業で取り組み割合が高く、商圏が広い(国内遠隔地・海外)ほど連携率が高い傾向があります。
| 企業間連携の特徴 | 白書の調査結果 |
|---|---|
| 連携先の業種 | 5割超が「同業種のみ」と連携している |
| 連携による業績効果 | 連携している事業者は、連携していない事業者より売上高・営業利益率の「増加・上昇」割合が高い |
| 商圏との関係 | 同一市区町村の事業者は連携意向が低く、商圏が広い事業者ほど連携に積極的 |
⚠️ 経営資源が限られる小規模事業者こそ「連携」が有効
単独では難しい設備投資・新規市場開拓・人材確保も、同業者や異業者との連携で実現できる場合があります。商工会・商工会議所・よろず支援拠点は連携のマッチングを支援しています。まずは顔見知りの同業者や取引先との緩やかな情報交換から始めることが第一歩です。
第9章:注目の企業事例——経営リテラシーで変革した小規模事業者
130年超の歴史を持つ老舗の醤油醸造所。取引先の減少で赤字が続く中、原価管理は「どんぶり勘定」状態だった。浜北商工会の経営指導員のサポートを受け、「簡易的な計算から始める・主要商品に絞る」という方法で原価構成表の作成に着手。
調査の結果、売上高の9割超を占めていた業務用醤油が実は赤字であることが判明。BtoC商品の比率を高める方針へ転換し、業績改善につなげた。
示唆:「原価計算は難しい」という先入観を捨て、支援機関の助けを借りて簡易版から始めることが重要。顧問税理士に原価管理の方法を相談することも有効。
公共事業として橋の建設・修繕を手掛ける。3代目承継時、社員の平均年齢が40代半ばを超え若手確保が急務だったが、建設業の長時間労働体質が障壁となっていた。残業削減・週休2日制導入・有給取得促進という働き方改革を断行し、「若者に選ばれる職場」を目指した。
示唆:労務管理の改善は採用競争力に直結する。小規模事業者でも「選ばれる職場」になることで採用難を克服できる。
雪止め金具の製造メーカー。ユーザーの誤設置によるクレームが増加し、対応に多大な労力が取られていた。新潟県工業技術総合研究所と連携して独自の厳格な社内基準を策定。防災科学技術研究所と協力して取扱説明書も作成し、製品の安全性を強みとして確立。クレームの大幅減少と安定した収益確保を実現した。
示唆:品質管理への投資は「コスト削減」だけでなく「ブランド差別化」にもなる。公的支援機関との連携が品質基準策定を後押しする。
珈琲焙煎士が運営する企業。主要顧客だった個人経営喫茶店の廃業ラッシュで売上・経常利益が急落。よろず支援拠点のコーディネーターに相談し、BtoC向けの自社オリジナル商品「津焙煎珈琲」ブランドを立ち上げ、高品質路線への転換を戦略として明確化。新規顧客開拓に成功した。
示唆:顧客層の変化を早期に察知し、商品開発・ブランディング・販路開拓というマーケティング戦略を支援機関と一緒に考えることが変革につながる。
精密加工技術を強みに持つ製造業者。約10年前に深刻な技術流出を経験し、価格決定権を失う苦い経験をした。その反省から知財戦略に転換し、顧問弁理士と年間1〜3件の特許出願を継続。「ばね式ろ過装置」等の独自製品の権利化により、模倣品排除と価格決定権の確保を実現した。
示唆:知的財産の権利化は大企業だけのものではない。小規模事業者でも弁理士・産業振興財団の支援を活用すれば取り組める。自社の強みを守ることが付加価値向上の鍵。
第10章:税理士・公認会計士の視点からのコメント
白書が示す「経営リテラシーの高い事業者の姿」——数字で確認する
白書のデータが一貫して示しているのは、基本的な経営管理(原価把握・試算表作成・経営計画・品質管理・ノウハウ共有)に取り組んでいる事業者ほど、業績が良好という事実です。これは、高度なスキルや多額の投資を必要とするものではありません。
今すぐできる3つのアクション
- ①主力商品・サービスの原価を計算してみる:「原価管理は難しい」という先入観を捨て、主要3〜5商品に絞って簡易的な原価計算を行う。顧問税理士・商工会の経営指導員に相談すれば一緒に取り組める
- ②月次試算表を見て経営判断をする習慣をつける:試算表を月次で受け取り、売上・粗利率・主要費目の前月比を自分で確認する習慣が、経営判断の精度を劇的に高める
- ③簡単な経営計画(1枚)を作って共有する:「今年の目標売上・粗利率・主要施策」を1枚にまとめ、従業員と共有する。これだけで「策定+共有+進捗確認」の出発点になる
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