給与計算と仕訳

第1章:給与計算の全体構造——支給・控除・手取りの関係

給与(賃金)は、「総支給額」から「控除項目」を差し引いた「手取り額(差引支給額)」が従業員の口座に振り込まれます。

手取り額 = 総支給額 − (社会保険料・本人負担分 + 源泉所得税 + 住民税 + その他控除)

区分主な内訳
総支給額
(課税支給額+非課税支給額)
基本給、役職手当、時間外手当(残業代)、通勤手当(15万円/月まで非課税)、家族手当、住宅手当 等
控除項目
(給与から天引きするもの)
①健康保険料(本人負担分)
②介護保険料(40歳以上の本人負担分)
③厚生年金保険料(本人負担分)
④雇用保険料(本人負担分)
⑤源泉所得税(所得税)
⑥住民税(特別徴収)
⑦その他(社内積立・財形貯蓄等)
手取り額総支給額 − 上記控除合計

給与明細サンプル——具体的な数値例

前提:月次給与、標準報酬月額30万円、扶養0人、40歳未満、東京都在住(単位:円)

給与明細書(2025年4月分)
支給項目控除項目          
基本給280,000健康保険料(本人)14,670
役職手当10,000厚生年金保険料(本人)27,450
通勤手当(非課税)10,000雇用保険料(本人)900
総支給額合計源泉所得税6,270
300,000住民税(特別徴収)12,000
控除合計61,290
差引支給額(手取り)238,710

第2章:社会保険料の計算——標準報酬月額と折半負担

標準報酬月額とは

社会保険料(健康保険・厚生年金)は、標準報酬月額をベースに計算します。標準報酬月額とは、4〜6月の給与の平均額を保険料算定用に区分した金額で、毎年9月に改定される仕組みです(定時決定)。

保険の種類保険料率(2025年度)本人負担会社負担計算対象
健康保険料
(協会けんぽ・東京都)
9.98%4.99%4.99%標準報酬月額
介護保険料
(40歳以上65歳未満)
1.60%0.80%0.80%標準報酬月額
厚生年金保険料18.30%9.15%9.15%標準報酬月額
雇用保険料
(一般の事業)
1.55%(2025年度)0.6%0.95%賃金総額(実際の給与額)
労災保険料業種によって異なる全額会社負担全額賃金総額

上記サンプルの社会保険料計算(標準報酬月額30万円・40歳未満)

保険種別計算式本人負担(天引き)会社負担
健康保険料300,000円 × 4.99%14,670円14,670円
厚生年金保険料300,000円 × 9.15%27,450円27,450円
雇用保険料300,000円 × 0.6%(本人)
300,000円 × 0.95%(会社)
1,800円2,850円
合計43,920円44,970円

⚠️ 社会保険料の天引きは「翌月控除」が原則

健康保険・厚生年金は原則として当月分を翌月の給与から天引きします(翌月控除)。例えば4月分の保険料は5月支給の給与から控除します。ただし、入社時(資格取得月)は当月から天引きとなる場合があり、退職月の扱いも注意が必要です。なお、雇用保険料は当月の給与から当月控除が通常です。会社によって当月控除を採用しているケースもあり、自社のルールを確認・統一することが重要です。

第3章:源泉所得税の計算—源泉徴収税額表の使い方

源泉所得税は、国税庁が定める「給与所得の源泉徴収税額表」を使って計算します。毎年改定される可能性があるため、必ず最新版を確認してください。

源泉徴収税額の計算手順

ステップ内容上記サンプルでの数値
①課税支給額を計算総支給額から非課税通勤手当を除いた金額300,000円 − 10,000円(非課税通勤手当)= 290,000円
②社会保険料を控除課税支給額から本人負担の社会保険料を差し引く290,000円 − 43,920円 = 246,080円(社会保険料等控除後の金額)
③税額表で確認「月額表」の「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」欄と「扶養親族等の数」欄の交点で税額を読む246,080円・扶養0人 → 6,270円(税額表による)

💡 「甲欄」と「乙欄」の違い

税額表には「甲欄」と「乙欄」があります。

  • 甲欄:「給与所得者の扶養控除等申告書(マル扶)」を提出している従業員に適用。税率が低い
  • 乙欄:マル扶を提出していない従業員(複数の勤務先がある場合の副業先等)に適用。税率が高い

従業員入社時に必ず「扶養控除等申告書」を提出させ、甲欄を適用することが通常です。

第4章:月次給与の仕訳—支払時・納付時の処理

仕訳① 給与支払日の仕訳(当月25日振込)

給与支払時の仕訳(上記サンプルの数値)

給与手当

290,000

 

 

基本給280,000+役職手当10,000(課税分)

旅費交通費(通勤手当)

10,000

 

 

非課税通勤手当

 

 

預り金(源泉所得税)

6,270

源泉所得税(翌月10日納付)

 

 

預り金(住民税)

12,000

住民税特別徴収(翌月10日納付)

 

 

預り金(社会保険料)

43,920

健保14,670+厚年27,450+雇保1,800

 

 

普通預金

237,810

従業員口座への振込(手取額)

→ 給与手当(借方)は課税支給額のみ。通勤手当は旅費交通費(または「通勤手当」科目)として別処理。源泉所得税・住民税・社会保険料(本人分)はいずれも「預り金」で一時的に計上する

仕訳② 源泉所得税・住民税の納付(翌月10日)

預り金(源泉所得税)

6,270

 

 

4月分源泉所得税の納付

 

 

普通預金

6,270

e-Taxによる電子納付

預り金(住民税))

12,000

 

 

4月分住民税(特別徴収)の納付

 

 

普通預金

12,000

市区町村への納付

→ 源泉所得税・住民税はいずれも給与支払月の翌月10日が納付期限。納期の特例(半年に1回納付)を申請している場合は、1〜6月分を7月10日、7〜12月分を翌年1月20日に一括納付

第5章:社会保険料の仕訳—会社負担分の処理

社会保険料は従業員と会社が折半(雇用保険は会社負担が多い)します。会社負担分は「法定福利費」として費用計上します。

月次の社会保険料処理(翌月末納付の場合)

法定福利費

44,970

 

 

会社負担:健保14,670+厚年27,450+雇保2,850

 

 

未払費用(社会保険料)

44,970

翌月末納付予定の会社負担分

未払費用(社会保険料)

44,970

 

 

会社負担分の消込

預り金(社会保険料)

43,920

 

 

従業員天引き分の消込

 

 

普通預金

88,890

日本年金機構・健康保険組合への一括納付

→ 社会保険料の納付は毎月末日(土日の場合は翌営業日)が期限。会社負担分と従業員天引き分を合算して日本年金機構に一括納付する

社会保険料に関する科目の整理

科目内容B/S・P/L上の位置
給与手当従業員への基本給・手当の総額(課税分)P/L:販管費(人件費)
法定福利費会社が負担する社会保険料(健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険)P/L:販管費(人件費)
預り金(社会保険料)従業員の給与から天引きした社会保険料(本人負担分)——納付まで一時的に預かるB/S:流動負債
未払費用(社会保険料)会社負担分で、まだ納付していない社会保険料B/S:流動負債
預り金(源泉所得税)従業員から天引きした源泉所得税——納付まで一時的に預かるB/S:流動負債
預り金(住民税)従業員から天引きした住民税(特別徴収分)——納付まで一時的に預かるB/S:流動負債

第6章:賞与(ボーナス)の仕訳

賞与の社会保険料は、標準賞与額(賞与額の1,000円未満切捨て)をベースに計算します。健康保険は年度累計573万円・厚生年金は1回150万円が上限です。源泉所得税は「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使って計算します。

賞与の源泉所得税計算手順(前月の給与がある場合)

ステップ内容
①前月の社会保険料等控除後の給与額を確認前月の課税支給額から社会保険料本人負担分を差し引いた金額
②賞与に対する源泉徴収税額算出率を確認国税庁の「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」で、前月給与と扶養人数から税率を確認
③賞与の社会保険料控除後の金額に税率を乗じる(賞与総額 − 賞与の社会保険料本人負担分)× 算出率

賞与(または給与手当)

300,000

 

 

夏季賞与 総額

 

43,920

 

 預り金(源泉所得税)

9,600

賞与の源泉所得税

 

 

預り金(社会保険料)

42,000

賞与の社会保険料本人負担分

 

 

普通預金

248,400

従業員口座への振込

→ 賞与の会社負担社会保険料は「法定福利費 / 未払費用」の仕訳で別途計上(月次と同様の処理)。賞与に住民税は連動しない(住民税は前年の所得に基づく年割額を毎月天引きするため)

第7章:年末調整の仕訳——還付・追加徴収

年末調整とは

源泉所得税は毎月の給与から概算で天引きしているため、年間の正確な所得税額とズレが生じます。年末調整は、1月〜12月の給与・賞与から天引きした源泉所得税の合計と、各種所得控除(生命保険料控除・配偶者控除・住宅ローン控除等)を反映した「本来の年間税額」を突き合わせて、差額を精算する手続きです。

パターン状況会社の対応仕訳
還付源泉徴収税額の合計 > 年税額
(天引きしすぎた)
差額を従業員に還付する(12月の給与または賞与に加算して支給)預り金(源泉所得税)借方で消込
追加徴収源泉徴収税額の合計 < 年税額
(天引きが不足していた)
差額を12月または1月の給与から追加で天引きする預り金(源泉所得税)貸方に追加計上

年末調整の仕訳例——還付の場合

給与手当(12月分・課税分)

290,000

 

 

12月給与の課税支給額

 旅費交通費(通勤手当)

10,000

 

 

非課税通勤手当

 

 

預り金(源泉所得税)

▲13,460

12月分源泉税6,270 − 還付額19,730 = ▲13,460(還付超過)

 

 

預り金(住民税)

12,000

住民税(通常通り)

 

 

預り金(社会保険料) 

43,920

社会保険料(通常通り)

 

 

普通預金 

257,540

手取額+還付分13,730を加算して振込

→ 還付により「預り金(源泉所得税)」の貸方残高が減少(または借方超過)になる。翌月(1月)の納付時に、他の従業員の源泉税から還付分を差し引いて納付する

年末調整の仕訳例——追加徴収の場合

給与手当(12月分・課税分)

290,000

 

 

12月給与の課税支給額

 旅費交通費(通勤手当)

10,000

 

 

非課税通勤手当

 

 

預り金(源泉所得税)

14,270

12月分源泉税6,270 + 追加徴収8,000

 

 

預り金(住民税)

12,000

住民税(通常通り)

 

 

預り金(社会保険料) 

43,920

社会保険料(通常通り)

 

 

普通預金 

229,810

追加徴収分を差し引いた手取額

年末調整後の納付——超過分の還付申請または翌月以降の源泉税から相殺

年末調整で従業員への還付総額が、その月に会社が納付すべき源泉所得税の合計を上回る場合、超過分は税務署から会社に還付されます(「源泉所得税及び復興特別所得税の納期限等の特例」に基づく)。翌年1月の源泉税納付の際に、還付超過額を差し引いた金額のみを納付するか、「源泉所得税の誤納額の還付請求書」を提出して還付を受けます。

第8章:給与関連の年間スケジュールと申告・納付期限

1月

・年末調整過不足税額の納付(1/20まで)
・源泉徴収票の従業員交付(1/31まで)
・給与支払報告書の市区町村提出(1/31まで)
・法定調書合計表の税務署提出(1/31まで)

2月〜5月

・毎月の給与支払・源泉税/住民税納付(翌月10日)
・社会保険料の月次納付(月末)
・3月:雇用保険料の労働保険年度更新の準備開始

6月(住民税改定)

・住民税の特別徴収税額通知書受領
6月分から新しい住民税額で天引き開始
・住民税の天引き額を必ず更新する

6〜7月
(労働保険年度更新)

・前年度の確定賃金額で保険料を精算
・今年度概算保険料の申告・納付
7/10が申告・納付期限

7月
(算定基礎届)

・4〜6月の給与平均で標準報酬月額を届出
・日本年金機構に算定基礎届を提出
7/1〜7/10が提出期限
・9月分(10月支払)から新保険料適用

8〜10月

・毎月の給与処理
・9月:標準報酬月額の改定反映(10月支払分から)
・月額変更届の要否チェック(昇給・降給等)

11〜12月
(年末調整)

扶養控除等申告書・各種控除申告書の回収
・生命保険料控除証明書等の回収・計算
・年末調整の計算・過不足の精算
・12月または1月の給与で還付・追加徴収

翌年1月

・源泉徴収票・給与支払報告書の作成
・法定調書合計表の提出(1/31)
・住民税の新年度額の確認待ち

源泉所得税は給与支払月の翌月10日(納期の特例は7/10・翌1/20)が期限です。期限を1日でも過ぎると不納付加算税10%(自主的な納付なら5%に軽減)が課され、さらに延滞税も加算されます。源泉所得税は会社が従業員に代わって預かった税金であり、「忘れた」では済まされない重要な義務です。カレンダーへの登録・リマインダー設定を徹底してください。

第9章:よくある誤りと注意点

①通勤手当の非課税限度額を超過している

通勤手当の非課税限度額は月15万円です(2024年1月以降)。電車・バス通勤の実費相当額・マイカー通勤の距離に応じた限度額を超える部分は課税給与として源泉徴収の対象になります。自動車・バイクでの通勤は距離区分ごとに非課税限度額が定められているため注意が必要です。

②社会保険料の月割りと翌月控除のズレ

入社月・退職月は社会保険料の取り扱いが通常と異なります。入社日が月の途中でも、原則として入社した月分から保険料が発生し、翌月給与から控除するのが基本です。退職月は「同月得喪」(同じ月に入退社)の場合、保険料の計算が特殊になるため慎重に確認が必要です。

③住民税を「当月徴収で翌月納付」と混同する

住民税(特別徴収)は6月分から翌年5月分を12か月で均等に天引きします。毎年6月に市区町村から送付される「特別徴収税額の決定通知書」で翌年5月までの月額を確認し、給与計算ソフトに登録します。新入社員・退職者の住民税の切り替え(特別徴収→普通徴収)の手続きも忘れずに。

④年末調整で「住宅ローン控除」を1年目に適用しない

住宅ローン控除の1年目は年末調整では適用できず、確定申告が必要です。2年目以降は年末調整で適用できます。従業員から「初めて住宅を購入した」と相談を受けたら、確定申告が必要である旨を必ずお伝えください。

⑤役員報酬への源泉所得税の適用を誤る

役員報酬も従業員給与と同様に源泉徴収の対象です。ただし役員の場合、「扶養控除等申告書」の提出要否の確認が必要で、複数の役職を持つ場合(例:代表取締役兼従業員)の源泉徴収も複雑になります。顧問税理士に都度確認することを推奨します。

⑥労働保険料(雇用保険・労災保険)の年度更新を忘れる

労働保険料は毎年6月1日〜7月10日に前年度の確定保険料と今年度の概算保険料を申告・納付する「年度更新」が必要です。前年の総賃金額を正確に集計し、ハローワーク(雇用保険)・労働局(労災保険)に申告書を提出します。年度更新を怠ると追徴や遅延が発生します。

第10章:まとめ

  • 手取り額 = 総支給額 − (社会保険料本人負担 + 源泉所得税 + 住民税 + その他控除)
  • 社会保険料(健康保険・厚生年金)は標準報酬月額ベースで計算し、会社と従業員が折半
  • 社会保険料は原則「翌月控除」(翌月の給与から天引き)。雇用保険は当月控除が通常
  • 源泉所得税は「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」で計算。扶養控除等申告書(マル扶)の提出で甲欄適用
  • 給与支払時:給与手当(借方)・預り金(貸方)・普通預金(貸方)の3点仕訳が基本
  • 会社負担の社会保険料は「法定福利費」として費用計上し、「未払費用」で一時計上後に納付で消込む
  • 源泉所得税・住民税の納付期限は給与支払月の翌月10日(遅延は不納付加算税10%)
  • 年末調整で還付→「預り金(源泉所得税)」を借方に計上して消込む。追加徴収→貸方に追加計上
  • 6月:住民税の天引き額更新、7月:算定基礎届の提出、11〜12月:年末調整が年間3大重要業務
  • 通勤手当の非課税限度額(月15万円)・住宅ローン控除の1年目確定申告必須・年度更新の期限を押さえる
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石水 秀治(いしみず しゅうじ)

大手監査法人にて17年間、製造業・建設業を中心とした財務デューデリジェンス、IPO支援、内部統制構築支援に従事。2025年に石水会計事務所を開設。中小企業・起業家に寄り添うアドバイザリー型の支援を提供している。