非上場会社の事業承継における株式の集約方法

株式が分散したまま代を重ねると、経営権そのものが揺らぐ

中小企業の事業承継で最も見落とされがちなのが、「株式の分散」という問題です。創業者の相続を経るたびに株式が複数の親族に分かれ、後継者が議決権の過半数すら持てないケースは少なくありません。本記事では、分散した株式を後継者に集約するための具体的な方法と、種類株式・属人的株式という会社法上の制度をどう活用するかを、実務の視点から解説します。

第1章:なぜ株式の分散が事業承継の最大リスクになるのか

創業者が一代で築いた会社では株式は1人に集中していますが、相続を1回・2回と経るごとに、株式は複数の相続人に分散していきます。後継者には会社の経営権を、他の相続人には現金や不動産を、と理想的に分けられればよいのですが、中小企業の場合は株式以外に分けられる資産が少なく、株式そのものを分割して相続させてしまうケースが頻発します。

株式分散が引き起こす経営上の問題具体例
意思決定の遅延・停止定款変更・増資・M&A等、株主総会特別決議(3分の2以上の賛成)が必要な事項が進められない
少数株主による経営介入会社の経営に関与しない親族株主が、株主代表訴訟・会計帳簿閲覧請求権を行使するリスク
株式の更なる分散分散した株主が死亡すると、その株式がさらにその子・孫に分散し、収拾がつかなくなる
後継者の経営権の不安定化後継者が議決権の過半数(普通決議)や3分の2以上(特別決議)を確保できない

具体例で見る株式分散の危険性

株主創業者存命時1次相続後(配偶者・子3人で分割)2次相続後(孫世代に再分散)
創業者(先代)100%
後継者(長男)40%25%
配偶者30%—(死亡・再分散)
次男15%20%
長女15%15%
孫世代(4名)40%(分散)
合計100%100%100%

🔴 2次相続後、後継者は特別決議も普通決議も単独では通せない状態に

上記の例では、2次相続を経た時点で後継者(長男系)の議決権は25%にまで低下し、定款変更等の特別決議(3分の2以上)はもちろん、取締役の選任等の普通決議(過半数)すら単独で成立させられません。さらに孫世代の株式は人数が多く意見も様々になりがちで、「会社の経営にまったく関与していない株主」が議決権の過半数を持つという本末転倒な状態に陥ります。この事態を防ぐには、相続が発生するたびに、または発生する前に、株式を計画的に集約していく必要があります。

第2章:株式集約の基本5パターン

分散した株式を後継者(または会社)に集約する方法は、大きく次の5パターンに整理できます。

① 相対での買取り

後継者や会社が、少数株主から個別に交渉して株式を買い取る方法。最もシンプルだが、株主全員の合意が必要で、売却を拒む株主がいると実現できない

② 会社による自己株式の取得

会社が株主総会の決議(原則特別決議)を経て、特定の株主から自己株式を買い取る方法。分配可能額の範囲内でのみ実施可能。少数株主の整理に有効

③ 株式併合による少数株主の整理

複数株式を1株に統合し、1株未満となった株主に現金を交付して整理する方法(スクイーズアウトの一種)。少数株主の同意なしに実施できる場合がある

④ 種類株式・属人的株式の活用

株式の所有自体は分散させたまま、議決権や経済的権利の配分を設計し直す方法。後継者に経営権を集中させつつ、他の株主には配当等を享受させることができる

✅ 株式集約の現実的な選択指針

①②③は「株式そのものを移動・消滅させる」アプローチで、株主の合意形成や資金負担(買取資金)が必要です。一方④は「権利の設計を変える」アプローチで、資金負担が小さく、株主間の感情的対立も避けやすいという利点があります。実務では、まず④の種類株式・属人的株式の活用を検討し、それでも解決できない部分(少数株主が多すぎる等)を①〜③で補うという組み合わせが現実的です。

第3章:種類株式を活用した株式集約—拒否権付株式・取得条項付株式ー

会社法は、株式に異なる権利内容を設定できる「種類株式」の発行を認めています(会社法108条)。事業承継において特に有効な種類株式を整理します。

🛡️ 拒否権付株式(黄金株)

特定の重要事項(取締役の選任・解任、定款変更等)について、この株式の株主の承認がなければ決議が成立しない権利を付与する株式。後継者に1株だけ発行することで、株式の保有比率に関わらず最終的な拒否権を確保できる

🔄 取得条項付株式

一定の事由(株主の死亡、退職等)が生じた場合に、会社が株主の同意なく株式を取得できる権利を会社に付与する株式。先代の死亡時に会社が自動的に株式を取得する設計が可能

📊 配当優先・無議決権株式

配当を優先的に受けられる一方で議決権を持たない(または制限される)株式。経営に関与しない親族株主に、配当という経済的利益を提供しつつ議決権を後継者に集中させられる

⚖️ 取得請求権付株式

株主の側から会社に対して株式の買取りを請求できる権利を付与する株式。経営から離れたい少数株主に出口(エグジット)を用意することで合意形成を促す

典型的な活用シナリオ——「黄金株」による拒否権確保

事業承継の実務でよく使われるのが、後継者に「拒否権付株式」を1株だけ発行するという手法です。先代社長が引退後も会社の重要決定に一定の影響力を残したい場合、または後継者の経営権を保険的に強化したい場合に、議決権の過半数を取らなくても拒否権という形で経営の安定を確保できます。

活用パターン設計の考え方
先代が引退時に拒否権付株式を保有普通株式は後継者に譲渡するが、拒否権付株式(1株)は先代が保有し続け、重要な意思決定に一定の影響力を維持する
後継者に拒否権付株式を集中後継者の議決権比率が低くても、拒否権付株式により他の株主が結束しても重要事項を強行できない仕組みを作る

⚠️ 黄金株の落とし穴——円滑化法上の認定や信用面への影響

黄金株(拒否権付株式)は強力な手法ですが、後継者以外が拒否権付株式を持つ場合、後継者の経営の自由度を過度に制約するリスクがあります。また、金融機関によっては拒否権付株式の存在が融資審査やガバナンス評価に影響することがあるため、導入前に顧問税理士・弁護士・取引銀行との事前相談が望ましいです。

第4章:属人的株式(人的属性に着目した株式)の活用

非公開会社(株式譲渡制限会社)には、種類株式とは別に、「属人的株式」という制度があります(会社法109条2項)。これは、株式自体の権利内容を変えるのではなく、「特定の株主」に着目して、議決権の数や配当を受ける権利等に関する事項を、定款で別異に定めることができる制度です。

比較項目種類株式属人的株式
着目する対象株式(証券)そのもの特定の株主(人)
適用対象すべての会社非公開会社(株式譲渡制限会社)のみ
手続き定款変更(株主総会特別決議)+登記定款変更(株主総会特別決議。一部学説では特殊決議が必要との見解も)。登記は不要
株式の移転時の扱い株式に権利が付着しているため、譲渡先にも権利がそのまま移転株主の死亡・株式譲渡により、その人に紐づいていた特別な権利は当然には移転しない

💡 属人的株式の典型活用例——「1株1議決権」の原則を後継者だけ変える

属人的株式の最も典型的な活用法は、「後継者が保有する株式1株について、議決権を10個とする」という定款規定を設けることです。これにより、後継者の株式保有比率自体は低くても(例えば30%)、議決権の実質的な比率を大幅に高めることができます(10倍すれば計算上は過半数を超える設計も可能)。登記を要しないため種類株式よりも機動的に導入でき、株主構成が頻繁に変わる事業承継期に適した手法です。

⚠️ 属人的株式の限界——株主間の不公平感・後継者交代時の扱い

属人的株式は導入が容易な一方、「特定の個人」に紐づくため、後継者がさらに次の世代に交代する際には、改めて定款変更(または新たな属人的株式の設定)が必要になります。また、他の株主から見て「なぜあの人だけ特別な議決権を持つのか」という不公平感を招きやすく、株主間の関係性が良好であることが前提となる手法です。

第5章:株式集約の実行プロセス

ステップ実施内容関与する専門家
①株主構成の現状把握株主名簿を最新化し、各株主の保有割合・関係性(経営参加の有無)を整理する税理士・司法書士
②将来の相続シミュレーション現状のまま相続が発生した場合の株式分散の見通しを試算し、リスクの大きさを可視化する税理士
③株式評価額の算定非上場株式の評価(類似業種比準方式・純資産価額方式等)を行い、買取りや種類株式設計の前提となる金額を把握する税理士・公認会計士
④集約方法の選択・設計相対買取り・自己株式取得・種類株式・属人的株式の中から、株主の状況に応じた最適な組み合わせを検討する税理士・弁護士・司法書士
⑤株主との合意形成少数株主に対して、株式譲渡や定款変更について説明し、合意を取得する(説明が不十分だと後の紛争リスクになる)経営者・税理士・弁護士
⑥定款変更・株主総会決議種類株式・属人的株式の導入には株主総会特別決議(場合により全株主の同意)が必要弁護士・司法書士
⑦登記・契約書類の整備種類株式の場合は登記、株式譲渡の場合は株式譲渡契約書の作成等を行う司法書士

✅ 株式集約は「相続発生前」に着手することが最重要

株式集約は、株主全員の協力(同意)が前提となる場面が多く、関係者の人数が少なく、関係が良好なうちに進める方が圧倒的に容易です。相続が発生してから集約しようとすると、相続人それぞれの利害が絡み、感情的な対立が生じやすくなります。事業承継対策は「先代が元気なうち」に始めることが、最も重要な原則です。

第6章:事業承継税制(特例措置)との関係

株式集約を検討する際、事業承継税制(非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税猶予制度)の特例措置とのセットでの検討が欠かせません。特例措置の適用を受けると、後継者が取得した非上場株式に係る贈与税・相続税の納税が、一定の要件のもとで猶予(実質的に免除)されます。

項目内容
対象株式特例措置では、後継者が取得する株式の全部が対象(一般措置は3分の2まで)
適用要件の一例会社が特例承継計画を都道府県知事に提出していること、後継者が代表権を有すること等
適用期限特例承継計画の提出・特例措置の適用には期限が設けられているため、税制改正情報を都度確認する必要がある

⚠️ 種類株式・属人的株式と事業承継税制の組み合わせは事前に専門家へ相談を

事業承継税制の適用にあたっては、後継者が取得する株式の議決権比率等が要件に絡む場合があります。種類株式や属人的株式を導入した後の議決権構成が、納税猶予制度の要件にどう影響するかは複雑なため、株式集約の設計と事業承継税制の適用検討は、必ずセットで顧問税理士に相談することをお勧めします。

第7章:株式集約で注意すべき税務・会社法上のリスク

税務上の留意点

  • 低額譲渡・高額譲渡の認定リスク:少数株主から株式を買い取る際、適正な評価額(税務上の非上場株式評価額)と異なる価格で取引すると、差額に対して贈与税・所得税が課されるリスクがある
  • 自己株式取得時のみなし配当:会社が株主から自己株式を取得する際、取得価額のうち資本金等の額を超える部分は「みなし配当」として課税される(所得税法25条等)
  • 属人的株式の評価への影響:属人的株式により議決権を多く持つ株主の株式は、財産評価上、通常の株式よりも高く評価される可能性がある(国税庁の見解・実務上の取扱いを要確認)

会社法上の留意点

  • 分配可能額の制約:自己株式の取得は、会社法上の分配可能額(会社法461条)の範囲内でしか実施できない。資金繰りへの影響も考慮する必要がある
  • 株主間の手続的公正:少数株主から株式を買い取る際、強圧的な手続きで進めると、後に株主から取引の効力を争われるリスクがある
  • 属人的株式導入の決議要件:株主間の不平等が大きい属人的株式の導入は、株主総会特別決議だけでなく、実質的に全株主の同意に近い合意形成が望ましいとされる(学説上、特殊な決議が必要との見解もある)

第8章:まとめ

  • 株式の分散は、相続を経るごとに進行し、後継者が議決権の過半数すら確保できなくなる「事業承継の最大リスク」になりうる
  • 株式集約の基本5パターン:①相対での買取り②自己株式の取得③株式併合④種類株式・属人的株式の活用
  • 種類株式(拒否権付株式・取得条項付株式・配当優先株式等)は、株式の権利内容自体を設計し直すことで、資金負担を抑えつつ経営権を集中できる
  • 属人的株式は非公開会社限定の制度で、「特定の株主」に着目して議決権数等を別異に定められる。登記不要で機動的だが、後継者交代時には再設計が必要
  • 株式集約の実行プロセスは、現状把握→将来シミュレーション→株式評価→集約方法の選択→合意形成→決議・登記の流れで進める
  • 事業承継税制(特例措置)との組み合わせは複雑なため、株式集約の設計段階から顧問税理士に相談することが望ましい
  • 低額譲渡・みなし配当等の税務リスク、分配可能額の制約等の会社法上のリスクに留意する
  • 株式集約は「相続発生前」「関係者が少なく関係が良好なうち」に着手することが最も重要な原則
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石水 秀治(いしみず しゅうじ)

大手監査法人にて17年間、製造業・建設業を中心とした財務デューデリジェンス、IPO支援、内部統制構築支援に従事。2025年に石水会計事務所を開設。中小企業・起業家に寄り添うアドバイザリー型の支援を提供している。