固定費と変動費の分け方——自社のコスト構造を最初に知る

管理会計の第一歩は、自社のコストを「固定費」と「変動費」に分けることです。この分解ができると、損益分岐点の把握、値下げの限界ライン、業績悪化時にどこを削るべきかといった経営判断が一気に見えやすくなります。本記事では、固定費・変動費の基本的な考え方から、勘定科目ごとの具体的な分類方法、業種別の実例、分類でつまずきやすいポイントまで解説します。

固定費と変動費とは何か

固定費とは、売上の増減にかかわらず一定額が発生する費用です。事務所家賃、正社員の給与、減価償却費、保険料などが代表例で、売上がゼロの月でも支払いが発生します。

変動費とは、売上や生産量に比例して増減する費用です。材料費、外注費、仕入原価、販売手数料などが該当し、売上が増えればその分だけ支出も増えます。

売上高 - 変動費 = 限界利益
限界利益 - 固定費 = 営業利益

なぜ固定費と変動費を分ける必要があるのか

決算書の勘定科目は「販管費」「製造原価」といった性質別・機能別の区分であり、そのままでは「売上が1割落ちたら利益はいくら減るか」がわかりません。固定費・変動費に組み替えることで、次のような分析が可能になります。

  • 損益分岐点売上高の算出(いくら売れば赤字を脱するか)
  • 値引き・値上げが利益に与える影響の試算
  • 受注可否の判断(限界利益がプラスなら受注する価値がある)
  • 売上減少局面で削るべき費用の優先順位づけ

勘定科目ごとの分類の目安

実務では、決算書や試算表の勘定科目を一つずつ固定費・変動費に振り分けていきます。以下は中小企業でよく使われる分類の目安です。

区分主な勘定科目判断のポイント
固定費地代家賃、正社員給与、減価償却費、保険料、リース料、水道光熱費(基本料金部分)売上の増減と無関係に、契約や人員数に応じて一定額が発生する
変動費材料費、仕入原価、外注加工費、販売手数料、荷造運賃売上や生産量に比例して増減する
準変動費水道光熱費(従量部分)、消耗品費基本料金+使用量に応じた部分が混在する。固定費部分と変動費部分に按分する
準固定費パート・アルバイト人件費、残業代ある売上水準までは固定的だが、一定水準を超えると段階的に増える

準変動費・準固定費の扱い方

水道光熱費のように固定部分と変動部分が混在する費用は、過去数か月の実績データから「売上との相関」を見て按分するのが実務的です。厳密さより「毎月の分析に使える精度」を優先し、迷った場合は多くを占める性質の区分に寄せて簡便的に処理する方法もあります。

業種別の分類例

建設業の場合

区分該当する費用
固定費本社家賃、正社員給与、重機のリース料(固定契約分)、車両保険料
変動費工事ごとの材料費、外注費、現場作業員の日当、廃材処分費

建設業では工事案件ごとに変動費を集計し、案件別の限界利益を把握することが受注可否判断の基本になります。

製造業の場合

区分該当する費用
固定費工場家賃、正社員給与、設備の減価償却費、品質管理部門の人件費
変動費原材料費、外注加工費、消耗工具費、歩合制の販売手数料

電気工事など個人事業主の場合

区分該当する費用
固定費事務所家賃(自宅兼事務所は按分)、車両リース料、保険料
変動費材料費、外注費、燃料費(現場移動分)

分類でよくあるミス

  • 人件費をすべて固定費にしてしまう(パート・繁忙期の応援人件費は変動費寄りのことが多い)
  • 減価償却費を変動費に入れてしまう(現金支出を伴わない典型的な固定費)
  • 一度分類したまま更新しない(人員構成や契約が変わったら見直しが必要)

分類した後の活用イメージ

固定費・変動費が整理できると、次のステップである損益分岐点分析(いくら売れば赤字を脱するか)や、直接原価計算による商品別・案件別の採算管理につなげられます。まずは直近1年分の試算表を、上記の表を目安に一度仕分けしてみることから始めるとよいでしょう。

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石水 秀治(いしみず しゅうじ)

あずさ監査法人にて17年間従事(IPO支援4社)。2025年7月、山梨県甲府市に石水会計事務所を開業。国の認定経営革新等支援機関として、中小企業の会計・法務体制構築を支援。