剰余金の配当規制—分配可能額はどう計算するのかー

「利益が出ているから配当できるはず」と考えがちですが、会社法上、配当できる金額には明確な上限(分配可能額)があります。この上限を超えて配当を行うと、取締役が会社に対して支払義務を負うなど重い責任が生じます。本記事では、分配可能額の考え方と具体的な計算方法、配当実務で注意すべき点を解説します。

「利益が出ている」=「配当できる」ではない

会社法は、株主への配当(剰余金の配当。会社法454条)について、決算書上の当期純利益ではなく、会社法461条が定める「分配可能額」という会社法独自の概念で上限を定めています。当期は黒字でも、過去の累積損失や自己株式の保有状況によっては分配可能額がゼロ、あるいはマイナスになっているケースもあります。損益計算書の利益だけを見て配当を決めるのは危険です。

分配可能額の計算の基本(会社法446条・461条)

分配可能額は、会社法446条が定める「剰余金の額」を出発点に、会社法461条2項が定める調整項目を加減して計算します。実務では次の2段階で押さえると理解しやすくなります。

ステップ1:剰余金の額を計算する(会社法446条1号)

剰余金の額 = 資産の額 + 自己株式の帳簿価額の合計額
 - 負債の額 - (資本金+準備金の額)
 - 法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額(会社計算規則149条)

ここでいう「法務省令」とは、政令(内閣が定める命令)ではなく、法務省が定める会社計算規則を指します。会社計算規則149条は、最終事業年度の末日時点で剰余金の額から控除すべき項目(その他有価証券評価差額金・土地再評価差額金のマイナス残高など、損益に計上されていないが会社財産の減少を示す項目)を定めています。

この計算式は貸借対照表の構造そのものであるため、実務上は次のように読み替えると分かりやすくなります。

剰余金の額 = その他資本剰余金 + その他利益剰余金

ステップ2:分配可能額を計算する(会社法461条2項)

分配可能額 = 剰余金の額(461条2項1号)
 + 臨時計算書類承認後の期間利益の額(同項2号イ、会社計算規則156条)
 + 同期間内に自己株式を処分した場合の対価の額(同項2号ロ)
 - 自己株式の帳簿価額(同項3号)
 - 最終事業年度末日後に自己株式を処分した場合の対価の額(同項4号)
 - 臨時計算書類承認後に生じた損失の額(同項5号、会社計算規則157条)
 - その他法務省令で定める額(同項6号、会社計算規則158条)

項目内容根拠条文
その他資本剰余金資本取引から生じた剰余金(資本金・準備金の取り崩しなど)会社法446条1号
その他利益剰余金繰越利益剰余金など、稼いだ利益の累計から配当済み・準備金積立分を除いたもの会社法446条1号
自己株式の帳簿価額会社が保有する自己株式の取得原価。分配可能額から全額控除される会社法461条2項3号
臨時計算書類の期間利益・処分対価臨時決算を行い株主総会承認を受けた場合の当該期間の利益と自己株式処分対価会社法461条2項2号、会社計算規則156条
臨時決算後の損失臨時計算書類承認後に生じた損失の額会社法461条2項5号、会社計算規則157条
のれん等調整額の超過額などのれんの額の2分の1と繰延資産の合計(のれん等調整額)が資本金・準備金の合計を超える部分など会社法461条2項6号、会社計算規則158条

資本金や資本準備金・利益準備金自体は分配可能額の計算に含まれません(配当の財源にできない)。これらは、以前の連載回で触れたとおり、会社の財産的基盤として維持することが会社法の趣旨だからです。中小企業では、のれん等調整額の調整(会社計算規則158条)が問題になる場面は限定的ですが、M&Aで「のれん」を計上している会社は特に注意が必要です。

なぜ「のれん等調整額の超過額」を減額調整するのか

のれん(M&Aで生じる超過収益力)や繰延資産は、換金性・処分可能性に乏しく、他の資産のように売却して現金化できる保証がない会計上の資産です。仮に、こうした実体の乏しい資産を多く抱える会社が、決算書上の剰余金だけを根拠に配当を行えば、実際には裏付けとなる会社財産がないまま株主に金銭が流出し、債権者の引当てとなる財産が損なわれるおそれがあります。会社法はこれを防ぐため、資本金・準備金という「本来配当できない財源」の水準(資本等金額)を、のれんの額の2分の1と繰延資産の合計(のれん等調整額)が上回っている場合、その超過部分を分配可能額からあらかじめ差し引くこととしています(会社計算規則158条1号)。のれんの額を2分の1にとどめているのは、のれんの一部は資本金・準備金という保守的な財源でカバーされている限りは実務上問題視しないという、規制の緩和と債権者保護のバランスを取った制度設計によるものです。

具体例で確認する

その他資本剰余金300万円、その他利益剰余金1,200万円、自己株式の帳簿価額200万円の会社を想定します。

項目金額
その他資本剰余金3,000,000円
その他利益剰余金12,000,000円
剰余金の額(合計)15,000,000円
自己株式の帳簿価額(控除)△2,000,000円
分配可能額13,000,000円

この会社が配当できる上限は1,300万円です。これを超える配当を決議・実行すると、会社法上の違法配当となります。

配当の前に確認すべき2つの追加ルール

純資産額300万円の下限(会社法458条)

分配可能額の計算上プラスであっても、会社法458条により、配当後の純資産額が300万円を下回る場合、その配当は行うことができません。中小企業では純資産が薄い会社もあるため、この下限にも注意が必要です。

臨時計算書類を使う場合(会社法441条・461条2項2号)

分配可能額は原則として最終事業年度の末日(直近の決算日)を基準に計算され、その後、実際に配当を行う時点までの期間に稼いだ利益は、分配可能額に反映されません。これは、会社法が剰余金の額を「株主総会等の承認を受けた確定した決算数値」に基づいて計算することを原則とし、未確定の期中損益を安易に配当原資に含めることを認めていないためです。年に一度の決算を経なければ株主に還元できないという、債権者保護を重視した保守的な設計になっています。

しかし、この原則を貫くと、期中に大きな利益を上げた会社であっても、次の決算を待たなければその利益を配当できず、機動的な株主還元や資本政策(増資の受け皿づくりなど)の妨げになります。そこで平成17年改正で導入されたのが、会社法441条の臨時計算書類の制度です。事業年度の途中の一定の日(臨時決算日)を基準に臨時計算書類を作成し、決算と同様に監査(監査役等の設置会社の場合)や株主総会等の承認という手続きを経ることで、事業年度の初日から臨時決算日までの期間利益を、通常の決算と同じ水準の信頼性を持った数値として扱うことができるようになります。会社法461条2項2号は、この承認を受けた期間利益とその期間内の自己株式処分対価を、分配可能額に加算することを認めています。

つまり、単に「今期は儲かっているから配当してよい」という自己申告ではなく、通常の決算と同等の承認プロセスを経て初めて期中利益が配当原資として認められる、という点が制度の核心です。中小企業では監査役監査や臨時株主総会の招集の手間からこの制度を使う場面は限定的ですが、機動的な配当や増資直前の資本政策を検討する際の選択肢として押さえておくとよいでしょう。

臨時計算書類による加算額 = 事業年度初日~臨時決算日の期間利益(461条2項2号イ、会社計算規則156条)
 + 同期間内の自己株式処分対価(461条2項2号ロ)

数値例で確認する

前期末の剰余金の額が1,000万円の会社が、当期に臨時決算を行い、期首から臨時決算日までの期間で300万円の利益を計上し、株主総会の承認を受けたケースを考えます。あわせて、この期間中に帳簿価額50万円分の自己株式を80万円で処分したとします(処分差益30万円)。

項目金額根拠条文
①前期末の剰余金の額10,000,000円461条2項1号
②臨時計算書類の期間利益3,000,000円461条2項2号イ
③同期間内の自己株式処分対価800,000円461条2項2号ロ
④自己株式の帳簿価額(分配時点の保有分)△1,500,000円461条2項3号
分配可能額(①+②+③-④)12,300,000円 

ここでのポイントは、自己株式を処分して得た対価80万円がそのまま加算される点です(処分した自己株式の元の帳簿価額50万円ではなく、実際に受け取った対価80万円が加算額になります)。一方、④の自己株式の帳簿価額は、分配時点で会社が実際に保有している自己株式の帳簿価額(今回処分した50万円分は保有から外れるため、その分は含まれません)を基準に控除します。処分差益30万円(③-処分した自己株式の帳簿価額50万円の差)は、臨時計算書類の承認という手続きを経たことで、確定した決算数値と同様に分配可能額の増加として認められることになります。

逆に、臨時計算書類を経ずに自己株式を処分した場合はどうなるか

同じ「帳簿価額50万円の自己株式を80万円で処分」という取引でも、臨時計算書類を作成せず、通常どおり前期末の決算数値のみを基準に分配可能額を計算する場合は、扱いが大きく変わります。この場合、会社法446条2号により、分配時点の剰余金の額には自己株式の処分差損益(対価80万円-帳簿価額50万円=30万円)が加算される一方、会社法461条2項4号により、処分対価の全額80万円が分配可能額から控除されます。この2つを合わせると、次のとおり実質的な効果は相殺されます。

項目臨時計算書類あり臨時計算書類なし
①前期末の剰余金の額10,000,000円10,000,000円
②分配時点の剰余金の額への調整-(②2号ロで別途加算)+300,000円(処分差益、446条2号)
③自己株式処分対価の加算(461条2項2号ロ)+800,000円
④自己株式の帳簿価額(461条2項3号、保有分)△1,500,000円△1,500,000円
⑤自己株式処分対価の控除(461条2項4号)-(2号で処理済みのため対象外)△800,000円
分配可能額9,300,000円8,000,000円

「臨時計算書類なし」のケースの分配可能額800万円は、実は「自己株式を一切処分しなかった場合」(前期末剰余金1,000万円-自己株式帳簿価額200万円=800万円)とまったく同じ金額です。つまり、臨時計算書類を経ずに自己株式を処分しても、実際に生じた処分差益30万円は分配可能額に反映されず、ネットしてゼロになります。同じ取引でも、臨時計算書類の承認を受けたケースでは分配可能額が930万円となり、130万円もの差が生じます。「期中に自己株式を売って利益が出たから、その分配当に回せるはず」という考え方は、臨時計算書類という正式な手続きを経なければ成り立たない、という点が実務上の重要な注意点です。

違法配当を行った場合のリスク(会社法462条)

分配可能額を超えて配当した場合の責任(会社法462条1項)

分配可能額を超える配当(違法配当)が行われた場合、会社法462条1項により、その業務執行を行った取締役や、配当を決議した株主総会に議案を提出した取締役は、原則として会社に対し、連帯して超過額を支払う義務を負います。金銭等を受け取った株主も、会社に対して同額の返還義務を負います(同項柱書)。「知らなかった」では済まされないため、配当を検討する際は必ず事前に分配可能額を計算する必要があります。

実務上のポイント

中小企業のオーナー経営者が自社から配当を受け取る場面では、税務上のメリット・デメリット(配当所得としての課税)だけに目が行きがちですが、その前提として会社法上配当できる金額の上限があることを見落としてはいけません。配当を検討する際は、決算書の純資産の内訳から剰余金の額を確認し、自己株式の有無も含めて分配可能額を算出したうえで意思決定することが重要です。

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石水 秀治(いしみず しゅうじ)

あずさ監査法人にて17年間従事(IPO支援4社)。2025年7月、山梨県甲府市に石水会計事務所を開業。国の認定経営革新等支援機関として、中小企業の会計・法務体制構築を支援。