
事業承継や少数株主の整理などの場面で、会社が自社の株式(自己株式)を買い取ることがあります。自己株式の取得は、会社法上、株主総会決議や財源規制といった手続き面の制約があるほか、会計上も「資産」ではなく純資産のマイナス項目として扱われるという特殊な処理が必要です。本記事では、自己株式取得の会社法上の手続きと、財務諸表にどのような影響が生じるかを解説します。
Thank you for reading this post, don't forget to subscribe!自己株式とは何か
自己株式とは、会社が発行した自社の株式を、会社自身が取得して保有しているものです。かつては原則禁止とされていましたが、現在の会社法では、一定の手続き・財源規制のもとで自己株式の取得が認められています(会社法155条)。中小企業では、退任する役員や離脱する株主から株式を買い取り、経営権の分散を防ぐ目的で活用されることが多くあります。
自己株式取得の会社法上の手続き
自己株式の取得方法はいくつかありますが、中小企業で最も多いのは、特定の株主から直接買い取る方法です。この場合、会社法156条・160条に基づき、次の手続きが必要になります。
| 手続き | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 株主総会の普通決議 | 取得する株式数、取得価額の総額、取得期間の上限(1年以内)を決定 | 会社法156条 |
| 特定の株主から取得する場合 | 原則として、他の株主にも売主として参加する機会を与えなければならない(売主追加請求権) | 会社法160条 |
| 特別決議への格上げ | 特定の株主からの取得を決議する株主総会では、原則として特別決議が必要 | 会社法309条2項2号 |
| 取締役会での個別決定 | 株主総会で定めた範囲内で、具体的な取得の都度、取締役会(非設置会社は取締役)が取得内容を決定 | 会社法157条 |
非公開会社(株式譲渡制限会社)で、特定の株主のみから買い取る場合は、他の株主が「自分の株式も買い取ってほしい」と請求できる売主追加請求権が原則として発生します。この請求権を排除するには、株主総会の特殊決議(総株主の半数以上かつ議決権の3分の2以上)による定款の定めなどの対応が必要になるため、事業承継目的で特定の株主からのみ買い取りたい場合は、事前の設計が重要です。
財源規制—自己株式も「配当」と同じ枠で制限されるー
自己株式の取得は、株主に会社財産を交付する点で配当と経済的に類似するため、会社法461条1項2号・3号により、取得価額の総額は分配可能額の範囲内でなければならないという財源規制が及びます。分配可能額の計算方法は、前回の連載記事「剰余金の配当規制」で解説した内容と同じです。分配可能額を超えて自己株式を取得した場合は、剰余金の配当の場合と同様に、業務執行を行った取締役等が会社に対して超過額を支払う義務を負います(会社法462条1項1号)。
中小企業で見落とされがちなポイント
- 「会社にお金があるから」という理由だけで自己株式を買い取ってしまい、分配可能額を超えていないか確認していない
- 特定の株主から買い取る際、他の株主への売主追加請求権への対応を検討していない
- 株主総会決議を経ずに、代表者の判断だけで株式の買い取りを進めてしまう
自己株式の会計処理——資産ではなく資本のマイナス
自己株式は、会計上「資産」として計上されません。取得原価をもって、貸借対照表の純資産の部(株主資本)の末尾に、控除項目(マイナス表示)として表示します。これは、自己株式の取得が実質的に株主への出資の払い戻しと同じ性質を持つと考えられているためです。
自己株式の会計処理:取得原価で純資産の部(株主資本)からマイナス表示
(資産として計上しない)
取得時の仕訳
例えば、額面総額100万円相当の自己株式を150万円で取得した場合、仕訳は次のとおりです。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 自己株式 1,500,000円 | 現金預金 1,500,000円 |
ここでのポイントは、取得の対価として支払った金額(時価・取引価額)がそのまま自己株式の帳簿価額になる点です。株式の額面や発行時の払込金額とは無関係に、実際に支払った金額で計上します。
処分時・消却時の会計処理
取得した自己株式をその後どうするかによって、会計処理が変わります。
| その後の扱い | 会計処理の概要 |
|---|---|
| 第三者に処分(売却)する | 処分対価と帳簿価額の差額を「自己株式処分差益(差損)」として、その他資本剰余金に加減する |
| 消却する(株式を消滅させる) | 取締役会(取締役会非設置会社は取締役)の決定により消却し、消却した自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金(不足時はその他利益剰余金)から減額する |
自己株式の処分・消却によって生じる差額は、損益計算書の利益には一切影響しません。すべて純資産の部(資本剰余金・利益剰余金)の中で完結する点が、通常の資産売却損益との大きな違いです。
財務諸表への影響
自己株式を取得すると、貸借対照表上、現金預金が減少すると同時に、純資産の部が同額減少します。結果として、自己資本比率が低下し、1株当たり純資産額(BPS)にも影響が生じます。事業承継の場面では、後継者以外の株主から自己株式として買い取ることで、後継者の持株比率を実質的に引き上げる効果がありますが、同時に会社の財務体質(自己資本比率)が悪化する点もあわせて検討する必要があります。
石水 秀治(いしみず しゅうじ)
公認会計士・税理士・公認不正検査士(CFE)|認定経営革新等支援機関
あずさ監査法人にて17年間従事(IPO支援4社)。2025年7月、山梨県甲府市に石水会計事務所を開業。国の認定経営革新等支援機関として、中小企業の会計・法務体制構築を支援。
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本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的・税務アドバイスではありません。


