商品販売の記帳方法
ー総記法・分記法・三分法と総額主義の原則ー
〜 どの方法で帳簿をつけても、決算書は「総額表示」でなければならない理由 〜
📋 この記事でわかること
- 商品販売の3つの記帳方法(総記法・分記法・三分法)の仕組みと違い
- それぞれの具体的な仕訳の書き方
- 企業会計原則における「総額主義の原則」とは何か
- 総額主義の観点から、どの記帳方法が決算書作成に適しているか
商品販売の記帳方法は「1つではない」
商品を仕入れて販売する—この一連の取引を帳簿に記録するとき、実は複数の方法があります。ー
代表的なものが次の3つです。
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そうきほう
総記法
仕入も販売も「商品」という1つの勘定科目だけで記録する方法。期中は利益が見えず、期末に整理する。
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ぶんきほう
分記法
商品を売るたびに原価と利益(商品販売益)を分けて記録する方法。売るたびに利益が計算される。
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さんぶんほう
三分法
仕入・売上・繰越商品の3つの勘定科目を使う方法。実務で最も広く使われている標準的な方法。
いずれの方法も、同じ取引を記録するものですから、最終的な利益の金額は同じになります。違うのは「どのタイミングで・どのような科目で記録するか」という過程の部分です。
ただし、後述する企業会計原則の「総額主義の原則」との関係で、決算書の表示方法に重要な差が生まれます。それぞれの方法を具体的な事例で見ていきましょう。
事例の設定
📦 共通の取引設定
- 期首商品在庫:20万円(原価)
- 当期仕入:現金で60万円(原価)
- 当期売上:現金で100万円(売価)
- 期末商品在庫:10万円(原価) → 売上原価 = 20万+60万-10万 = 70万円
- 売上総利益(粗利):100万円 - 70万円 = 30万円
① 総記法(そうきほう)
考え方
総記法は、仕入れたときも売ったときも、すべて「商品」という1つの勘定科目だけで処理する方法です。
- 商品を仕入れたとき → 商品勘定を原価で増やす
- 商品を売ったとき → 商品勘定を売価で減らす
仕入れたときは原価、売れたときは売価で記録するため、期中は「商品」勘定の残高に原価と利益が混在した状態になります。したがって期中には利益を把握できず、期末の決算整理で商品の実地棚卸をして初めて利益が確定します。
仕訳
【総記法】の仕訳
① 期首(前期末の在庫20万円は「商品」勘定に残っている)
借方
—(仕訳なし)
貸方
—
② 仕入れたとき(現金60万円で仕入れ)
借方
商品
600,000円
貸方
現金
600,000円
商品勘定:期首20万 + 仕入60万 = 残高80万円(原価)
③ 売ったとき(現金100万円で販売)
借方
現金
1,000,000円
貸方
商品
1,000,000円
商品勘定:80万(原価)- 100万(売価)= 残高 △20万円(期中は利益が混在)
④ 期末決算整理(実地棚卸で期末在庫10万円を確認)
借方
商品
300,000円
貸方
商品販売益
300,000円
商品勘定の残高を期末棚卸額(10万円)に合わせる整理仕訳。
差額30万円(=△20万 → +10万 の修正 = 30万円)が商品販売益(利益)として確定。
総記法で作成された損益計算書(P/L)
⚠ 総記法の損益計算書はこうなる
| 商品販売益(収益) | 300,000円 |
| (売上高・売上原価は表示されない) |
総記法では、売上高(100万円)も売上原価(70万円)も表示されず、「利益だけ」が損益計算書に現れます。これが後述する総額主義の原則との関係で大きな問題になります。
② 分記法(ぶんきほう)
考え方
分記法は、商品を売るたびに原価部分と利益部分を分けて記録する方法です。
- 商品を仕入れたとき → 「商品」勘定を原価で増やす
- 商品を売ったとき → 「商品」勘定を原価で減らし、売価との差額を「商品販売益」として記録
売るたびに利益を計算するため、期中でも利益をリアルタイムに把握できるのが特徴です。ただし、売るたびに原価を計算する必要があるため、取引量の多い企業では手間がかかります。また、総記法と同様に売上高(総額)は表示されないという問題があります。
仕訳
【分記法】の仕訳
① 仕入れたとき(現金60万円で仕入れ)
借方
商品
600,000円
貸方
現金
600,000円
② 売ったとき(原価70万円の商品を現金100万円で販売)
借方
現金
1,000,000円
貸方
商品
700,000円
商品販売益
300,000円
② 仕入れたとき(現金60万円で仕入れ)
分記法で作成された損益計算書(P/L)
⚠ 分記法の損益計算書もこうなる
| 商品販売益(収益) | 300,000円 |
| (売上高・売上原価は表示されない) |
分記法も、損益計算書には利益(商品販売益30万円)しか表示されず、売上高100万円と売上原価70万円は示されません。
③ 三分法(さんぶんほう)
考え方
三分法は、「仕入」「売上」「繰越商品」という3つの勘定科目を使い分ける方法です。日本の商業簿記の実務で最も標準的に使われています。
- 仕入れたとき → 「仕入」勘定で記録(費用勘定)
- 売ったとき → 「売上」勘定で記録(収益勘定)
- 期末に棚卸し → 「繰越商品」勘定で期末在庫を調整
仕入と売上を別々の勘定に記録するため、売上高の総額・仕入高の総額がそれぞれ明確に把握できます。後述の総額主義との親和性が最も高い方法です。
仕訳
【三分法】の仕訳
① 仕入れたとき(現金60万円で仕入れ)
借方
仕入
600,000円
貸方
現金
600,000円
② 売ったとき(現金100万円で販売)
借方
現金
1,000,000円
貸方
売上
1,000,000円
③ 期末決算整理①:期首在庫を「仕入」へ振り替える
借方
仕入
200,000円
貸方
繰越商品
200,000円
期首在庫20万円を繰越商品→仕入へ振り替えて、売上原価の計算に含める。
④ 期末決算整理②:期末在庫を「繰越商品」へ振り替える
借方
繰越商品
100,000円
貸方
仕入
100,000円
期末棚卸10万円を仕入→繰越商品へ振り替えて、翌期に繰り越す。仕入勘定の最終残高が売上原価(70万円)になる。
三分法で作成された損益計算書(P/L)
✅ 三分法の損益計算書はこうなる
| 売上高(収益) | 1,000,000円 |
| 売上原価(費用) | 700,000円 |
| 売上総利益(粗利) | 300,000円 |
売上高100万円・売上原価70万円・売上総利益30万円がすべて表示されます。これが総額主義の原則に合致した理想的な損益計算書の姿です。
3つの方法を比較する
同じ取引でも、記帳方法によって損益計算書の見え方がこれほど変わります。
総記法の損益計算書
商品販売益
300,000
売上高
非表示
売上原価
非表示
利益
300,000
分記法の損益計算書
商品販売益
300,000
売上高
非表示
売上原価
非表示
利益
300,000
三分法の損益計算書
商品販売益
300,000
売上高
1,000,000
売上原価
700,000
売上総利益
300,000
3つとも最終的な利益は30万円で同じです。しかし、損益計算書の表示内容は大きく異なります。この違いが、次に説明する総額主義の原則で重要な意味を持ちます。
企業会計原則における「総額主義の原則」
📜 企業会計原則 損益計算書原則(一)B より
「費用及び収益は、総額によって記載することを原則とし、費用の項目と収益の項目とを直接に相殺することによってその全部又は一部を損益計算書から除去してはならない。」
つまり、「収益(売上)と費用(売上原価)を相殺して、差額だけを表示することは許されない」ということです。
なぜ総額主義が必要なのか
総額主義の原則には、重要な経営情報を守るという意義があります。
① 事業規模が見えなくなる
利益(純額)だけを表示した場合、「売上100万円・原価70万円・利益30万円」の会社と「売上1億円・原価9,970万円・利益30万円」の会社の損益計算書が同じように見えてしまいます。利益は同じでも、事業規模・取引量・コスト構造は全く異なります。
② 粗利率(収益性)が把握できなくなる
売上高と売上原価が表示されていないと、粗利率(=売上総利益÷売上高)を計算できません。粗利率は事業の収益性を測る最も基本的な指標のひとつです。利益の額だけでは「どれだけ効率よく稼いでいるか」「商品又はサービスの付加価値の大きさ」が見えません。
③ 利害関係者への説明責任を果たせない
株主・銀行・取引先など、財務諸表を見る利害関係者は、利益の「額」だけでなく「どのように稼いだか」というプロセスを知る権利があります。収益と費用を相殺した純額だけでは、この情報が失われます。
💡 総額主義は「情報の透明性」を守るルール
総額主義の原則は、「利益を多く・少なく見せる操作」を防ぎ、財務諸表の利用者が会社の実態を正確に判断できるようにするための原則です。記帳方法は会社の内部手続きの問題ですが、外部に開示する決算書は必ず総額で表示しなければなりません。
総額主義の原則を踏まえると、どの方法がよいか
ここで重要なポイントを整理します。
📌 前提として理解しておくべきこと
記帳方法(総記法・分記法・三分法)は、日々の帳簿の記録方法の話です。どの方法で帳簿をつけても、決算書として外部に開示する損益計算書は、総額主義の原則に従い、売上高・売上原価を総額で表示しなければなりません。これは記帳方法の選択とは独立したルールです。
では、各記帳方法と総額主義の原則の関係を見てみましょう。
総記法・分記法の場合——追加の組み替えが必要
❌ そのままでは総額主義を満たさない
総記法・分記法から得られる損益計算書(そのまま)
商品販売益
300,000円
売上高
表示なし
売上原価
表示なし
利益
300,000円
→ 収益と費用が相殺されており、総額主義違反。外部開示の決算書としては不適切。
✅ 決算書作成時に組み替えが必要
総額主義に沿った損益計算書(組み替え後)
売上高
1,000,000円
売上原価
700,000円
利益
300,000円
→ 売上高・売上原価をそれぞれ総額で表示。総額主義の原則を満たした正しい表示。
総記法・分記法で帳簿をつけていた場合でも、決算書を作成する段階で売上高・売上原価を総額に分解して表示し直す作業(組み替え)が必要になります。この手間が、実務においてこれらの方法が使われにくい理由のひとつです。
三分法の場合——そのまま総額主義を満たす
三分法では、日々の帳簿から「売上(収益の総額)」と「仕入・売上原価(費用の総額)」が自然に分かれて集計されます。そのため、決算整理を経るだけで、総額主義の原則に合致した損益計算書が直接作成できます。
3つの方法の総合比較
| 比較項目 | 総記法 | 分記法 | 三分法 |
|---|---|---|---|
| 期中の利益把握 | できない | できる | できない(期末に確定) |
| 期中の在庫の把握 | できない | できる | できない |
| 売るたびの計算 | 不要 | 原価計算が必要 | 不要 |
| 売上高の総額表示 | できない | できない | 自然にできる |
| 総額主義との適合 | 要組み替え | 要組み替え | そのまま適合 |
| 実務での使用頻度 | ほぼ使われない | 少ない(不動産業など一部) | 最も一般的 |
| 主な使用場面 | 簿記学習上の概念 | 取引件数が少なく単価の高い商品 | ほぼすべての業種 |
三分法の期中の利益把握及び期中の在庫把握ができないという、欠点を解消するため、
実務上は売上計上時に
(借方)売上原価 ×× (貸方)商品 ××
という仕訳を計上することにより、利益や在庫を適時に把握するように工夫している会社が多いです。
まとめ——「記帳の自由」と「開示のルール」は別物
この記事の要点を整理します。
日々の帳簿のつけ方(記帳方法)は、総記法・分記法・三分法のどれを使っても構いません。最終的な利益の数字は同じになります。しかし決算書として外部に開示する損益計算書は別の話です。
企業会計原則の総額主義の原則により、収益(売上高)と費用(売上原価)は相殺せず、それぞれ総額で表示することが義務づけられています。
この観点から実務的な結論を言えば、三分法が最も合理的な選択です。売上高・仕入高・繰越商品という3つの勘定科目を使うことで、日々の記帳から決算書の作成まで一貫して総額主義の原則に沿った処理が自然に行えます。総記法・分記法は、決算書作成時に別途の組み替え作業が必要になり、実務上の手間とミスのリスクが増えます。
✅ この記事のまとめ
- 総記法:商品勘定1つで処理。期末に利益が確定するが、損益計算書に売上高・原価が表示されない
- 分記法:売るたびに原価と利益を分けて記録。期中に利益把握できるが、同様に売上総額が表示されない
- 三分法:仕入・売上・繰越商品の3科目で処理。売上高・売上原価を自然に総額表示できる
- 企業会計原則の総額主義の原則により、決算書は収益・費用を相殺せず総額で表示しなければならない
- 総記法・分記法で帳簿をつけた場合でも、決算書作成時に売上高・売上原価を分解して総額表示に組み替える必要がある
- 実務上は三分法が総額主義と最も親和性が高く、最も広く使われている
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石水会計事務所 代表 税理士・公認会計士・公認不正検査士
会計の基礎から実務処理まで、わかりやすい言葉で伝えることを大切にしています。中小企業・個人事業主の会計・税務のサポートを幅広く行っています。


