引当金って

📋 目次

  1. 引当金とは何か——「将来の損失に備える」仕組み
  2. 引当金が必要な理由——発生主義との関係
  3. 引当金の4つの要件
  4. 引当金の種類——貸倒・賞与・退職給付・その他
  5. 各引当金の計算方法と仕訳例
  6. 引当金と未払金・未払費用との違い
  7. 税務上の引当金——会計と税務はなぜズレるか
  8. まとめ——引当金を正しく理解するためのポイント

第1章:引当金とは何か

引当金(ひきあてきん)とは、将来発生することが予測される費用や損失に備えて、今期の費用として前もって計上しておく負債性の勘定科目です。

たとえば、12月31日が決算日の会社が1〜12月の間に従業員を雇用してきたとします。翌年6月に支払われる賞与は、1〜12月の業務に対する対価の一部です。この場合、賞与を翌年6月の費用とするのではなく、1〜12月の期間に発生した費用として今期に計上するのが「賞与引当金」の考え方です。

まだお金は払っていないが、将来払うことになる可能性が高い費用・損失を、発生した期間の費用として前もって計上しておく仕組み」です。貸方(右側)に負債として計上し、借方(左側)に費用を計上します。

引当金のB/Sとの関係

引当金は貸借対照表(B/S)の負債の部又は資産の部の控除項目として計上されます。ただし、確定した債務(例:買掛金・未払金)とは異なり、将来の支出の見積りであるため、その性質から「引当金」として区分表示されます。

引当金には2種類あります。評価性引当金(貸倒引当金)は資産のマイナスとして計上し、資産の評価額を正確にします。負債性引当金(賞与引当金・退職給付引当金など)は負債として計上し、将来の支出を示します。どちらも「将来に備える」という本質は同じです。

第2章:引当金が必要な理由——発生主義との関係

引当金が必要な理由は、会計の基本原則である「発生主義」にあります。

発生主義とは、収益や費用を「現金の受け払い」ではなく「経済的な事実が発生したとき」に認識する原則です。たとえば従業員が1〜12月に働いた事実(役務の提供)は1〜12月に発生しています。したがって、その対価である賞与は、実際に支払われる翌年6月ではなく、働いた1〜12月の費用として認識しなければなりません。

この原則に従うことで、各期の損益が実態を正確に反映した「正しい期間損益計算」が実現します。引当金を計上しないと、費用が翌期以降にまとめて計上されてしまい、今期の利益が過大に(翌期の利益が過小に)なってしまいます。

たとえば賞与引当金を計上しない場合、今期は費用が少なく見えて利益が多く計上されます。しかし翌期に賞与を支払うと、翌期の費用が突然大きくなります。これでは期ごとの損益が実態を反映せず、経営判断や税務申告にも支障が生じます。

第3章:引当金の4つの要件

企業会計原則 注解18は、引当金を計上するための4つの要件を定めています。すべてを満たす場合に引当金の計上が求められます(または認められます)。

将来の特定の費用・損失であること

引当金の対象は、内容が特定されている費用または損失でなければなりません。「何かよくわからないが将来お金が出ていくかも」という漠然とした見積りは対象外です。

発生が当期以前の事象に起因すること

その費用・損失の原因が、今期または過去の期間の事象によって生じていること。従業員が今期働いた(役務提供)が賞与の支払いの原因=今期以前の事象に起因する費用です。

発生の可能性が高いこと

将来その費用・損失が実際に発生する可能性が高い(蓋然性が高い)こと。可能性が低い偶発的な事象については引当金ではなく、注記での開示が求められます。

金額を合理的に見積もれること

将来の費用・損失の金額を合理的に算定できること。見積りには過去の実績・統計データ・個別判断などを使います。まったく金額が予測できない場合は計上できません。

4要件をすべて満たす引当金は、会計基準上計上義務があります(強制計上)。「利益が減るから計上したくない」という理由で省略することは、会計原則違反となります。ただし税務上は引当金の損金算入に制限があるため、会計と税務で処理が異なることがあります(第7章参照)。

第4章:引当金の種類(例示)

勘定科目:貸倒引当金繰入(費用)/ 貸倒引当金(資産控除)

売掛金・受取手形・貸付金などの金銭債権のうち、回収できなくなる可能性のある金額を見積もって計上。一般債権(一括評価)と個別評価債権に分けて計算する。

勘定科目:貸倒引当金繰入(費用)/ 貸倒引当金(資産控除)

決算期後に支払われる賞与(ボーナス)のうち、当期に対応する部分を見積もって計上。支給予定額を当期の負担分として月数按分するのが一般的。

勘定科目:貸倒引当金繰入(費用)/ 貸倒引当金(資産控除)

従業員が将来退職する際に支払われる退職金・企業年金の給付義務を、現在価値で見積もって計上。退職給付会計基準に基づき、数理計算を行って算定する。

勘定科目:役員退職慰労引当金繰入(費用)/ 役員退職慰労引当金(固定負債)

役員が退任する際に支払う退職慰労金を見積もって計上。役員退職慰労金規程をもとに在任年数・役位ごとの支給見込額を算定する。

勘定科目:製品保証引当金繰入(費用)/ 製品保証引当金(流動・固定負債)

販売した製品の保証期間内の修理・交換費用を見積もって計上。このほか、工事損失引当金・損害補償損失引当金・環境対策引当金なども同様の考え方で計上される。

第5章:各引当金の計算方法と仕訳例

① 貸倒引当金

一般債権(一括評価)——中小法人の法定繰入率

50,000円

50,000円

費用(貸倒引当金繰入)を計上し、資産の控除科目(貸倒引当金)を設定する

貸倒引当金の計上方法には洗替法(前期残高を全額戻し入れて当期分を新たに繰り入れる)と差額補充法(前期残高との差額だけ繰り入れる)があります。税務では洗替法が基本とされますが、どちらも一般に認められています

② 賞与引当金

1,800,000円

1,800,000円

当期(1〜3月)に対応する賞与の見積額を費用計上し、翌期の支払いに備える

3,600,000円

前期に計上した引当金1,800,000円を取り崩し、残り1,800,000円(4〜6月分)は翌期の費用として計上

③ 退職給付引当金

退職給付引当金は、従業員が将来退職するときに支払われる退職金・企業年金の期末時点の現在価値を見積もって計上します。計算は数理計算を要するため、通常は年金数理人(アクチュアリー)への依頼が必要となります。なお、従業員数300名未満の中小企業においては、期末時点の自己都合要支給額等による方法等により見積ることができます。

2,000,000円

2,000,000円

当期分の退職給付費用を計上。固定負債「退職給付引当金」として累積していく

第6章:引当金と未払金・未払費用との違い

引当金と似た科目に「未払金」「未払費用」があります。いずれも「まだ支払っていない」という点では共通しますが、確実性の程度が異なります。

第7章:税務上の引当金——会計と税務はなぜズレるか

法人税法の「債務確定主義」

法人税法では、費用・損失を損金(税務上の費用)として認めるためには、原則として「債務が確定している」ことが要件です(法人税法22条3項2号)。引当金は将来の見積りであるため、多くの場合税務上の損金には算入できません

税効果会計との関係

引当金の多くが税務上損金不算入となるため、会計上の費用(引当金繰入額)と税務上の損金にズレが生じます。このズレを調整する仕組みが税効果会計です。

たとえば賞与引当金1,800,000円を計上した場合、税務上は損金不算入なので課税所得が1,800,000円多くなります。翌期に実際に賞与を支払った時点で損金算入されるため、このタイミングのズレを「繰延税金資産」として計上します。

引当金繰入額が損金不算入の場合、法人税の確定申告書(別表四)で加算調整を行います。会計上は費用として計上されていても、税務上は課税所得から差し引かれないため、申告書で「加算」して課税所得を増やす調整が必要です。翌期に実際に支払い、損金算入要件を満たした時点で「減算調整」します。

第8章:まとめ——引当金を正しく理解するためのポイント

  • 引当金は「将来払う可能性が高い費用・損失を、原因が発生した今期の費用として前もって計上する」仕組みである
  • 発生主義の原則に基づき、正しい期間損益計算を実現するために必要
  • 引当金の計上には4要件(①特定の費用・損失、②当期以前の原因、③発生の可能性が高い、④金額を合理的に見積もれる)をすべて満たすことが必要
  • 主な種類は「貸倒引当金」「賞与引当金」「退職給付引当金」「役員退職慰労引当金」「製品保証引当金」など
  • 引当金(見積り)と未払金・未払費用(確定した債務)は性質が異なる
  • 会計上は計上義務があっても、税務上は多くが損金不算入。申告書での加算調整が必要
  • 貸倒引当金は例外的に税務上も一定範囲で損金算入が認められる
  • 退職給付引当金・役員退職慰労引当金など高額になりやすい引当金は、決算期に正確に算定・計上することで、利益の実態が正しく把握できる

引当金を計上すると費用が増え利益が減りますが、これは「利益を隠している」のではありません。将来必ず発生する費用を正しい期間に配分することで、今期の利益が実態を正確に反映した数字になるのです。引当金を計上しないほうが「実態より利益が多く見える状態」であり、会計原則上は誤りです。

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